「らんまん」「VIVANT」今期ヒット作の隠れた共通点 今の日本人の潜在意識くすぐるテーマがあった

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目下、豊臣秀吉(ムロツヨシ)が関白にまで上り詰めたところ。秀吉は、農民の出ながら、その類まれなる才覚で、のし上がってきた人物という認識があり、時代劇では人気がある。

ところが『どうする家康』では、家柄コンプレックスを埋めるため、織田家の血を引く茶々(北川景子)を側室にするなど、欲深さが強調され、家康主役のドラマとはいえ、秀吉の功績はほとんど描かれていない。母・仲(高畑淳子)は息子の出世で何不自由ない身分となったものの、自分は「幸せなんかのう」と疑問を抱く。

もしも戦国の女たちが野望・欲望反対運動をしたら?

また、家康の妻・瀬名(有村架純)は、『VIVANT』のベキと同じように「わかちあうこと」を主張し、戦争のない国づくりをしようと賛同者を集め、それが織田への裏切る行為とみなされて命を落とした。

ドラマでは、家康が、亡き妻が夢見た戦のない世界を作ろうとして、自分が乱世の覇者にならずとも、秀吉が戦のない世にしてくれるなら、プライドを捨てて彼に跪くことを選ぶのだ。「男の夢や野望のためにおなごが利用されるのは、もううんざりじゃ」と家康の母・於大(松嶋菜々子)は嘆く。

この展開が、なじみ深い歴史ものとかけ離れ、戸惑う視聴者も多いようだが、歴史に詳しくない視聴者なら、もしも戦国の女たちが戦争反対活動をしたら?というif展開として親しみやすく見ることも可能であろう。

もし、ウクライナ戦争が起こっていなかったら、『どうする家康』ももっと戦国武将を肯定し、戦シーンの痛快さを描いていたかもしれないし、『らんまん』も『VIVANT』にも「人間の欲望」という言葉は存在しなかったかもしれない。偶然とはいえ、人気ドラマで主要な人物から発せられた言葉は、時代を表す言葉なのである。流行語大賞の候補にしてはいかがだろうか。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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