ミシェル・オバマが"怪物"と語る「不安な心」克服法 夫の出馬で「突然バイクで空中に放りだされた」

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でもそのあと、彼の目はわたしの母を見つけた。バラクの向こうの席に座っていて、母の表情の何かが――わたしには驚きではないけれど――だいじょうぶだと告げていた。

そのあとの出来事は、歴史のちょっとしたひとこまのように感じられた。

ピアニスト、アレックス・ラカモアの伴奏に合わせて、リン=マニュエルは3分間のしびれるようなラップ・パフォーマンスを披露する。そして、火を吐くようなショーマンシップと、建国の父たちについてのすさまじく新鮮な解釈で聴衆を魅了した。

パフォーマンスを終えると笑顔になり、手を振って舞台をおりた。不安を心底忘れがたいものに変え、みんな圧倒されてことばを失った。

息をのむような経験だった

わたしたちが目にしたのは、緊張を克服した人だ。息をのむような経験だった。その瞬間には、さらに大きなメッセージが含まれていたと思う。

不安をロケット燃料に変える方法を見つけたとき、何ができるのか。なじみのないものに近づくときや新しい場所へ入って危険が高まるときには、たいていいつも緊張が用心棒としてついてくる。それは避けられない。

考えてほしい。学校の初日に、とても居心地の悪い思いをしない人なんている? 新しい仕事の初日に、ちょっとした不安を覚えない人がいる? あるいは最初のデートのときに? 見知らぬ人でいっぱいの部屋へ入ったり、重要なことについておおやけに立場を表明したりするとき、動揺しない人がいる? これらははっきりと居心地の悪さを感じる瞬間で、人生によって定期的に押しつけられる。でも、ときにスリリングでもある。

どうして? 最初の経験の先に何があるかわからないから。そこへたどり着くまでの旅は、人生を変える経験になるかもしれない。

デートに行かなければ、どうやってパートナーに出会うの? 新しい仕事に就いたり、新しい街へ引っ越したりしなければ、どうやって前へすすむの? 不安のせいで実家を出られずに大学へ行けなかったら、どうやって学んで成長するの? 知らない人でいっぱいの部屋へ足を踏みいれたり、新しい国へ旅をしたり、肌の色がちがう人と友だちになったりしなかったら?

未知のものには可能性が光り輝いている。リスクを冒さなければ、動揺をいくつか乗りこえなければ、変わるチャンスを自分で奪ってしまう。

“自分の世界を少し大きくできる?” 答えはたいていイエスだと、わたしは信じている。

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