叙勲はリーズナブルな国家の統治道具だ--『勲章』を書いた栗原俊雄氏(毎日新聞学芸部記者)に聞く
毎年2万人余りが受ける叙勲。本年春の叙勲は震災で延期されたが、「叙勲は国家のリーズナブルな統治道具だ」と言う。
──勲章制度には、裏付けになる法律がないそうですね。
敗戦直後から歴代の内閣は執拗に立法化を目指した。栄典法として国会で衆議院だけは通過したりもしている。当時の公聴会の記録を見ると、軍国主義の復活に対する懸念が根強くあって、どうしても立法できなかったようだ。
岸信介内閣も目指したが、結局、国会に法案の上程さえできない。岸元首相は当時を振り返って、国家の慶事であり、天皇の国事行為だから、性質上無理押しをするようなものではない、全会一致で作りたかった、と見送りの思いを語っている。
──しかし、現在、叙勲は行われています。
法律こそないが、池田勇人内閣が、閣議決定で課題だった生存者叙勲を復活させた。それを停止させたのが閣議決定なのだから、閣議決定で復活させればよいと。戦前の太政官布告や勅令を援用しつつ、1964年に戦没者叙勲1万人余りと同時に生存者叙勲は復活した。もっとも、その戦没者叙勲の7割以上が最下位の勲八等だったが。
──戦後憲法下でも勅令が有効なのですか。
それなりの論理で援用されている。生存者以外の勲章制度の運用基準は明治憲法下の太政官布告や勅令だった。それは国民の権利をないがしろにするようなものではないから、日本国憲法下だからといって排除されないとして、そのまま使われた。
もともと日本国憲法第7条「天皇の国事行為」の第7項に「栄典を授与すること」が定められている。明治憲法のように天皇の専権では行えないが、「内閣の助言と承認により」行う国事行為となっている。