叙勲はリーズナブルな国家の統治道具だ--『勲章』を書いた栗原俊雄氏(毎日新聞学芸部記者)に聞く

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──内閣府に賞勲局という組織があります。

栄典法はなくても、内閣府の組織にして問題はない。褒章制度もあるし、褒章は生存者叙勲がないときに、その代わりの役割を担ってきた面もある。

──国事行為に入る……。

象徴天皇制下の日本にとって、天皇と国民をつなぐ重要かつ有効なツールが栄典制度といえる。ほとんどの人が喜んでもらう。そのためには、誰もが簡単にもらえては意味がない。今は生存者叙勲が春と秋に約4000人ずつ、このほか、高齢者叙勲、死亡叙勲、危険業務従事者叙勲など、外国人の叙勲もけっこうある。不定期の在日米軍司令官の叙勲は公表されていない。あれやこれやで、年2万人を超える。

高貴なものに対して日本人は弱い。ニーズもあるし、国家の統治道具としては非常にリーズナブルといえる。公表されていないが、勲章自体の製造費は、いちばん高いものでも何十万円になるかどうかではないか。それで国家に対する忠誠心や懸命に働くエネルギーが引き出せる。勲章は、いわば象徴天皇制日本、官僚制日本、産業国家日本を支える強い武器になる。昔の華族のように継承できるわけではないし、国にとってこんなにコストパフォーマンスのいいものはないのではないか。

──文化勲章もあります。

昭和天皇の肝いりで1937年に加わった。基本的には文化功労者から選ぶ。ノーベル賞受賞者のように文化勲章をもらうと同時に功労者になるとか、アポロ11号の船長ら3人のようにたまに文化勲章のみというのもあるが、これらは例外。

文化勲章の受章者に戦後も年金を授与しようとした。しかし、日本国憲法第14条に勲章には「いかなる特権も伴わない」とはっきり書いてあるので、それができない。そのため文化勲章を文化功労者との二重構造にした。現在は年額350万円が功労者に支給されている。それ以外の勲章には今は経済的な恩恵はない。

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