新自由主義の勃興と転換を促した9月の2つの事件 チリとアメリカ、同じ「9.11」に起きた史実の糸

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そしてそれから数カ月後、チリでは学生たちが政府に対して立ち上がり、新憲法を要求した。そして2022年3月、36歳の左派連合・チリ連合の新大統領ガブリエル・ボリッチ(1986年~)が大統領になる。

アジェンデは、自殺した日「われわれがまいている種は、けっして埋もれることはないと、思う」と述べていた。

アジェンデがまいた種

もちろん50年の時を経てアジェンデのまいた種が今後どう発展するかは、不明である。新大統領はアジェンデと同じく、議会の反対勢力と対立している。ただ、チリを含むラテンアメリカ諸国は今、アメリカに対してしっかりとものを言える状態になりつつある。

2023年8月に南アフリカで開催されたBRICS首脳会議では、加盟国の拡大が行われた。彼らの生産力や人口を見る限り、もはや1970年代のような弱小国の集まりではない。インドでG20が開催されたが、西側資本主義は、かつてのように圧倒的な政治力、軍事力、経済力で世界を牛耳ることが、今ではできなくなっている。

1973年9月11日は西側資本主義の挽回をもたらしたが、2001年9月11日は再度、非西側諸国の復活を生み出したのかもしれない。今後、世界は非西側諸国によって動いていくだろうことは、おそらく間違いないだろう。

それがどういった体制を生み出すかわからないが、アジェンデのまいた種は、しっかりと大地に根付いていたのかもしれない。カール・マルクスが著した『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』の言葉を使えばこうだ。

「掘り返したぞ、老いたモグラよ!」

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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