「iPhone15」で見せつけたアップルの周到戦略 計画的な「長寿命化」がもたらしたブランド価値

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A17 ProのNeural Engineは2倍の性能とアナウンスされているが、これは2倍の速度として体感できるものではない。しかし音声認識や文字認識の正確性、切り抜きや被写体認識の精度などは、端末を使いこなすうえでの心地よさに直結し、世代を重ねた時にその違いを実感できるものだ。

消費者は毎年のようにアップデートされるiOSの機能を享受し続けた結果、買い替えの時期には、すでに使いこなしている機能も含めて”より心地よく高精度”となっている。そうして顧客との長期的なエンゲージメントを高めているわけだ。

前述の推論機能を活かすためのNeural Engineの性能が大幅に向上した時期を振り返ると、iPhone XS世代に搭載されたA12 Bionicにまで遡る。それ以降、iPhone SEを含めて推論処理を行うエンジンを活かせる環境が整えられているのは、SoCからOS、アプリ開発者サポートまでをアップルがワンストップで提供しているからにほかならない。

異例なほど安定した中古端末市場を形成

ハードウェアのベースラインを引き上げ、Neural Engineを活かしたOS機能、アプリの充実を図ることは、買い替え時のユーザー離脱防止につながる。さらに旧モデルを安価に提供してより幅広い層に製品を届けるなど、成熟市場の中で新たなiPhoneユーザーを獲得する間口を広げる施策も展開している。

アップルはiOSを5世代前のハードウェアにまで提供しているため、ちょうどiPhone XSまではiPhone 15に搭載されるiOS 17を導入することができる。とはいえ、やはり古さは感じるだろう。そのときにユーザーが次もiPhoneを選ぶよう、製品価値を長期間感じる”長寿命化”に取り組んでいるとも言える。

こうした陳腐化しないプラットフォームづくりにより、デジタル製品としては異例なほど安定した中古端末市場が形成されている。アップル自身も下取りサービスによる買い替え支援を行っているが、市井を見渡せばすでにiPhoneの中古市場が大きく拡大していることが確認できるだろう。

高値で安定した中古端末の相場は、最新端末に興味を持つアーリーアダプターたちに対し、最新機種への買い替えを促す効果を狙うこともできる。

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