逆風下でも巨額調達するスタートアップの共通項 核融合に宇宙、自動運転…「研究開発系」の底力

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同様の傾向は評価額ランキングにも見られる。ユニコーン(評価額が10億ドルを上回る未上場企業)に迫る存在に、アストロスケールホールディングス(宇宙ゴミ除去)、ティアフォー(自動運転システム)など、骨太の技術系スタートアップが名を連ねる。

直近では9月5日に、Mujin(ムジン)がシリーズCラウンドで123億円を調達したと発表した。2011年の創業以来開発してきたのは、知能ロボットコントローラー。従来はプログラムされた動きを繰り返すことしかできなかったロボットにさまざまなセンサーとそれらを統合するコントローラを接続し、環境変化に合わせて自律的に動作できるようにするものだ。

現在は工場や物流倉庫における大規模な自動化ソリューションも展開。また2019年に中国、2021年にはアメリカへと進出している。今回の出資者には、2019年から協業しているアクセンチュアも名を連ねる。

「グローバルに通用する潜在力を秘めた会社が、きちんと評価されている。彼らの資金調達では事業会社や、JICのファンドに象徴されるような公共色のある投資家など、(スタートアップの世界では)非伝統的なプレーヤーの存在が目立つ。こうしたプレーヤーがレイターステージ層の成長を支える役割を担う」

長年レイターステージ企業への投資を行ってきたシニフィアンの朝倉祐介氏は、8月に登壇したINITIALのセミナーでそう語った。

成功への難易度が高い

とはいえ、研究開発型のスタートアップは製品化や社会実装に至るまでにかかる費用や期間がインターネットサービスの比ではなく、成功への難易度が高い。より多くの成功例を生み出すには、公的支援の拡充もカギとなる。前述の「5カ年計画」でも経営人材確保や公共調達など多岐にわたる支援策が示されている。

この流れ自体は多くのスタートアップ関係者が歓迎しているが、「当事者が真に欲している形の支援になるのか、不安もある」(ディープテック系企業の起業家)。

政策をめぐっては、信託型ストックオプション(SO)の課税方針についてスタートアップ業界が混乱に陥った事象が記憶に新しい。官民で目線を合わせ、目下の市況低迷と中長期での成長ハードルを越え、10年後の日本を牽引する新勢力を生み出せるか。ここ数年が正念場かもしれない。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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