映画「バービー」をビジネス視点で見たら凄かった 発売元マテル社の戦略はこうやって読み解く

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受け身で美しい女性が、強い王子様に守ってもらう――ステレオタイプな女性表象を積み重ねてきたディズニーのプリンセスアニメや映画も、近年は強い女性リーダー(「アバローのプリンセス エレナ」)や結婚より自らのミッションを選ぶヒロイン(「モアナと伝説の海」)を描くようになっている。王子様はもはや、お姫様を救うのではなく、しょうもない悪役として登場することもある(「アナと雪の女王」「マレフィセント」)。

つまり性別役割の逆転は、現代のハリウッド映画では新しい手法とは言えず、定番のひとつになっている。特に#MeToo以降は、セクハラ問題や男女格差の問題を描く映画が次々に製作(「SHE SAID」「スキャンダル」「RGB 最強の85才」)されている。だから、本作が提示するジェンダー関連の議論そのものが新しいわけではない。

人形の発売元であるマテル社の試行錯誤

こうした前提を踏まえ、この記事では、第3の見どころを紹介したい。それは、変わりゆくジェンダー規範や消費者の意識に向き合う企業の試行錯誤である。

具体的にはバービー人形の製品販売を手掛けるマテル社のマーケティング戦略、特にリポジショニングの試みに着目したい。

映画の中には、MATTELのロゴがしばしば登場する。取締役会が白人男性のみで占められていたり、現場で働く人がほとんど男性だったりするシーンからは、労働における多様性の欠如を批判するメッセージを読み取れる。

(写真:映画「バービー」公式サイトより)

映画の中でマテル社CEOは、やや時代遅れの男性経営者として描かれる。すぐに部下を怒鳴りつける言動は、現代のグローバル企業経営者にはふさわしくないように見える。バービーや一般男性社員とのちょっとしたやり取りに彼の偏見が表れている。女児玩具を扱う企業には相応しくない人物に見える。

もし実際のマテル社の社内もこうだと消費者に理解されたらイメージダウンになりそうなきわどい設定だが、映画の冒頭と終わりに示される企業ロゴやクレジットから、マテル社が映画に全面協力していることは明らかだ。

多少なりとも広報やマーケティングの知識がある人が本作を見たら、きっと疑問を持つはずだ。「なぜ、マテル社は自社をおちょくるような映画にゴーサインを出したのだろう?」と。

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