食品はそれぞれの国の文化 伊那食品工業会長・塚越寛氏③

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つかこし・ひろし 伊那食品工業会長。もともと農家の冬の副業で相場商品だった寒天に、社員の1割を研究開発に充て付加価値を付けてきた。著書に『いい会社をつくりましょう』『リストラなしの「年輪経営」』ほか。1937年生まれ。10代後半の3年間、結核の病に伏した。

取引先ともウィン・ウィンの関係が大事。ビジネスとは何かといえば、「この会社が好き」というファンをいかに増やすかだと思ってる。会社は本来、社会の営みの中で人を幸せにするためのもの。その中でいちばん身近な人は社員でしょ。この会社はこの町の人を幸せにする、あの会社はあの町の人を幸せにする、そういうのが日本中にあるといい。取引先が儲かれば、そこの人が幸せになる。だから取引先からは正しい値段で買えばいい。

そういう意味では、スーパーとはあまり取引がない。身の丈に合わない商売はしないっていうのもあるけど、スーパーさんっていうのは、商品を育てるっていう気構えがないから。自分で育てるんじゃなく、テレビで宣伝して売れるようになったものを並べときゃいい。まじめに地場産業おこしをやってる中小企業がいっぱいあるのに、そういうのを大事にしないから。かつて、あるコンビニチェーンに「うちで扱ってもらいたいなら、最初は1円で持って来い」って言われたことがある。あるいは半値で、とか日常茶飯事だった。

 伊那食品は輸出はしません

寒天雑炊といういい新商品ができたんだ。あられ状の寒天でけっこう難しいの。でもそれもスーパーでは売らないんです、ブランド化できないから。有名とブランドとは違う。本当のブランドっていうのは、値引きせずに売れる品なんだよ。値引きして売るのなら、じゃあ定価ってそもそも何だ、っていうことになる。定価っていうのは、その会社が正常な企業活動をするために必要な価格なんだよ。それは本来守られるべきでしょ。あらかじめ高い定価つけといて、売るときは何割引きなんていうのは欺瞞だよ。だからうちは値引きはしない。そのかわり適正価格をつける、正常な企業活動ができる価格をね。量産しないし生産量も少ないから、自分で売ればいい。

伊那食品は輸出はしません。それはその国の人の領域を侵すことだから。食品という産業はその国の人がやるべきものだ。その国の文化まで侵すようなことやっちゃいかんのよ。儲けるために行くっていうのはおかしいんだよ。海外に四つあるうちの協力工場にはしょっちゅう、需要開発しなさいよって話して、そのためのノウハウもどんどん教えてる。日本だけに市場を限れば、当然伸び率は悪いよ。でも食品は日本だけでも70兆円市場。うちの売上高はたった170億円。寒天は健康にいいから、それを訴えていけばみんなが幸せになる。成長余地がありすぎちゃって天井が見えないよ。

週刊東洋経済編集部
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