やっぱり日本株の「正常化」がじわじわ進みそうだ 「ツーリスト投資家」の売りに惑わされるな

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ということは、ツーリスト投資家がドタバタと買い上げたことによる日本の株高が、今度はツーリスト投資家がドタバタと売り投げることにより下落が続いて仕切り直しとなる、という図式だ。

日本国内の投資家にとっては、そうしてわけのわからない海外筋に振り回される相場については、やり切れない思いとなるだろう。ただ、筆者は過去にも多くの海外投資家から「日本は、経済は先進国かもしれない。だが、株式市場は新興国並みだね。海外投資家が買えば上がるが、売れば下がる。いったい、国内の機関投資家はどこにいるのか」という皮肉を聞いてきた。

もし、日本市場がそうした体たらくであれば、ツーリスト投資家に株価が振り回されても仕方がないだろう。それが不満であれば、日本の投資家がしっかりと日本株を岩盤のように買っていけばよい。「海外投資家が買ってくれないと困る」と泣き言を言っていても、株価は上がらない。

正常化のなかで、短期の株価は今後も大きく変動

こうして日本株はまだ仕切り直し(あるいは正常化)という名の下落基調が続くと見込むが、短期的に株価は大きく上下動を繰り返し、方向感が明確になりにくい状況が続きそうだ。

テクニカル分析においては「今度は売りサインが出た」「いや、それは『ダマシ』で今度は買いサインだ」「いや、やはり売りサインが点灯している」などといった声を聞くが、筆者に言わせれば何十回でもダマシが現れそうだ。

そもそも世界の経済状況をとっても、正確な状況はつかみにくい。前述のジャクソンホール会議では、パウエル議長がそうした不透明感を「われわれは曇り空の下で、星を頼りに航海している」(We are navigating by the stars under cloudy skies)と表現したが、それに沿って、引き締めが行きすぎるリスクと引き締めが足りないリスクの間で金融政策を運営する難しさ(Our task of balancing the risk of tightening monetary policy too much against the risk of tightening too little)をも表明している。

アメリカ経済について、今まで市場は「経済は好調で後退リスクは乏しく、インフレは改善していて金利上昇リスクも乏しい」といいところ取りし、右側の崖(景気後退)と左側の崖(金利上昇)の間には広大な台地が広がっていると、これまで楽観にとらわれてきた。

だが、パウエル議長の発言は、両方の崖の間には綱くらいの幅しかないという事実を突きつけており、米国株は過度の楽観から綱渡りの不安定さへと突き落とされよう。

それが日本株にも影響を及ぼし、向こう数カ月間の流れで株価が調整する中、株価の短期的な上下動が引き起こされる結果となりそうだ。やはり、投資家心理も市場も「冷静と過熱のあいだ」で大きく揺れ動きそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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