8割が捨てる余ったコスメを「絵の具」にする選択肢 青森ねぶた祭りの「山車」の着色にも使われた

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メーカーから有価物として買い上げた粉末状コスメは、magic waterを混ぜてペースト状にしてから、一枚の板状に乾燥させる。それを粉砕して、再度粉にする。こうすることで、水になじみやすくなる。

「モーンガータが提供するのは、『コト消費』のための半製品状態のもの」(田中さん)というように、加工後、再度粉にすることで、絵の具としてだけではなく、キャンドルやジェルネイル、アクセサリーなど、いろんな雑貨に混ぜ込めるものになる。

「化粧品の輝きは独特。本来、化粧品の原料や技術を工業用の色材に使おうと思うと、コストがかかりすぎる」(田中さん)ものを安価に利用できるのは、大きなメリットだ。

印刷用インキも開発した

半製品状態のため、可能性はさらに広がり、凸版印刷と共同開発した印刷用インキ「ecosme ink」も開発した。コーセーでは自社のコスメ色材を、メゾンコーセーのギフトボックスのデザイン印刷に使用している。他社でも、ショッパーに利用するなど、活用の機会は広がってきた。

「ecosme ink®」を使用して印刷したパッケージの例(ⒸTOPPAN INC.)

一方で、デメリットもある。それは、同じ色を継続して作ることができないことだ。工業製品なら、固定色を継続して作ることができるが、コスメはシーズンごとに流行色が違う。同じピンクでも濃淡、ラメ感など同じものはない。

「その分、毎回一期一会の色がある。消費者も同じものを持ちたいという意識よりも、自分のオリジナリティー、ストーリー性を感じられるほうがいいという時代になってきた。そんな価値観の変遷を受け、パッケージの色が少し違ってもとくに気にしないなど、メーカー側の意識も変わってきている」(田中さん)

今後は、什器やディスプレイ用の樹脂板・紙再生板なども開発しているといい、他業種からの引き合いもあるという。

まさに、SDGsの最先端を行く取り組みをおこなっている田中さんだが、「廃棄ゼロ」を掲げているわけではない。

「リサイクルやアップサイクルを展開する事業者がよく『廃棄ゼロを達成し、ゆくゆくは僕らみたいな存在がなくなることを祈っている』という考え方を持っていることに少し違和感を感じる。廃棄ゼロは目指すべきだけど、消費社会からの脱却は現実的ではない。

それよりも、生産して生み出されたものを使い切れないのであれば、別の形で100%有効活用していきませんか?という考え方のほうがポジティブだと思う」と田中さん。

すでに生み出されたものがあるなら、新しい楽しみに提供し、楽しんだ結果の連続で、次につなげていく。手元に残っているコスメが、これからどんな形に変わっていくか、これからの可能性に思いを馳せてみたい。

吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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