8割が捨てる余ったコスメを「絵の具」にする選択肢 青森ねぶた祭りの「山車」の着色にも使われた

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化粧品業界は、プラスチックボトルの削減や再利用、サステイナブルな原料の使用や動物実験の廃止など、地球にやさしい取り組みには積極的だ。また、女性の働き方改革や、ジェンダーレス商品の開発など、多様性の観点でも先進的な事例を数多く輩出している。

しかし、モーンガータ代表の田中寿典さんによると「回収〜再利用で主流なのは、スキンケアの容器。メイク用品はネジやミラーが付いていて、回収しても意外にリサイクルしにくい。また、一般ユーザーから出る使い切れなかったコスメのほかにも、化粧品企業からは開発途中で試験用のものなど、どうしても廃棄するものも出てしまう」と言う。

開発のきっかけは?

「研究員として、自分で作ったものが捨てられることの悲しさや、自身が開発途上で捨ててきた化粧品の中身の多さにもったいなさを感じた。何かできないかと思っていたとき、姉が化粧品を使って絵を描いていた。アイライナーや口紅はそのまま描くことができるが、アイシャドウは扱いが難しかった。それで、画材として利用できるようにするにはどうすればいいかを考え始めた」(田中さん)

それこそ、アイシャドウは色数も多く、最もお絵かきに適したコスメのような気がするが、「水に強いウォータープルーフタイプでなくても、アイシャドウは汗で流れたり、崩れたりしないように粉体粒子が油でコーティングされている」(田中さん)ため、水彩絵の具のように使うことができない。

化粧品会社に在職中からどうやれば粉状コスメを色材化できるか、処方の構想を練り、2019年9月に姉弟で起業。そして、2020年1月に誕生したのが、アイシャドウを色材に変える「magic water」だ。

これは、化粧品を水彩絵の具化するための希釈液で、手持ちのアイシャドウやチークなどの粉末状の化粧品に馴染ませると、コーティングされている油が除去され、代わりに水になじみやすい成分でコーティングされる。

界面活性剤フリーで、すべて化粧品原料から構成されているため安全性上のリスクが限りなく低く、乾いた後は、あらためてコスメとしても利用可能だ。

「そもそも工業用と化粧品用品で原料のグレードが違う。化粧品は薬機法に基づき、医薬部外品原料規格として厳重に管理された、不純物の少ない原料を使用している。magic waterも化粧品のOEM企業に委託製造しているので、化粧品と同等の安全性を担保できている」(田中さん)という。そのため、再度コスメとして顔に使っても大丈夫というわけだ。

もう使わないと思ってmagic waterで絵の具にした後、「この色、やっぱりかわいいかも」と再度使い出す人もいるそうで、改めて自分のコスメを見直す機会の創出にもつながっているという。

モーンガータでは、コスメを色材としたオリジナル創作活動を「SminkArk(スミンクアート)」と名づけた。しかし、いよいよこれからというときに、新型コロナウイルス禍に見舞われた。ニッチでもない、完全な新規事業。そのうえ、未曾有のコロナ禍といきなり厳しい船出となったが、メディアで取り上げられたことをきっかけにコロナ禍が追い風に変わった。

コロナ禍に、お母さんのコスメを使って子どもとお絵かきする需要を開拓した(写真:モーンガータ)

「コロナ禍で女性が化粧をしなくなった。かつ、おうち時間が増えたお母さんたちが、子どもと一緒に家でできることを躍起になって探していた。そのタイミングでメディアに取り上げられたことで、親子需要を開拓した」(田中さん)のだ。

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