未完成なのに大反響「自動焦点アイウェア」の正体 HOYA発ベンチャーが「視覚で悩む人」向けに開発

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例えばViXion01は9時間の連続稼働が可能ではあるものの、日常的なツールとして使うには数日の電池寿命がほしいところだ。

また、眼鏡ほどの広い視野を得られるわけではない。現時点ではレンズ径が小さく、常用するには有効視野が狭い。ただ眼とレンズの距離を適切に調整すれば、長時間の細かな作業での快適性を実現できる。歯科医や精密機器修理などの専門職、屈折異常弱視に悩む患者、近視と老眼を両方もつ人などはすぐにでもほしいと思うだろう。

ViXionの南部誠一郎CEOは「われわれもこの製品が完璧なものだとは思っていません。未来的なデザインを採用したのも、日常的に使う眼鏡とは異なる商品であることを視覚的にも理解してほしいと思ったからでした」と明かす。クラウドファンディングを通じての製品化に踏み切ったのも、そうした背景からだという。

一般流通に乗せられるほど多くのニーズがなかったとしても、視覚に関する悩みを持ち、ViXion01を必要としてくれる人が存在することは間違いない。ならばまずは届けるところから始めよう、というわけだ。

クラファンで得た最大の成果

クラウドファンディングで集まった支援の大きさや、南部氏が全国の家電店を回りながら感じたデモンストレーションへの反響を考えれば、ViXionの最初の挑戦は成功しそうだ。

南部CEOは「この製品は完璧なものとは思っていない」と語り、さらなる技術開発を進める方針だ(筆者撮影)

冒頭でも述べたように、クラウドファンディングでは執筆時点で2.8億円を超える支援を受け、技術開発を進める資金を得ることができた。「近い将来、直径を1.5倍、視野を2倍に広げる新しいレンズを量産できる技術も見え始めました。レンズの光学特性も、より複雑な変化を機能として持たせる研究開発を進めています」(南部氏)。

もっともいちばん大きな成果は、ViXionが解決しようとしている問題について深く知ってもらうことができたことだろう。その奇抜な見た目はまるでSF世界のアイテムのようだが、未来的な印象とは裏腹に、視力に問題を抱える人を救う実用的な製品だ。

工業製品のクラウドファンディングは、"市場立ち上げの早期ステージ"や"実用化の最終段階"をクリアするための、お手軽な早期割引プランと化していたことは否定できない。とくに最近は、量産化を前提に、新製品を導入する際の安全な手法として使われることが多くなっていた。

しかしViXion01のように、社会的な意義、あるいは将来大きな発展が期待できる技術を用いた製品の始まりを支援できるのであれば、まだまだものづくりジャンルにおけるクラウドファンディングにも大きな意味がありそうだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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