バイク乗りが集まる「スズキラーメン」の正体 ラーメンマニア向けではない、シンプルな1杯

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「ラーメン」。1杯あたり50グラム以上の大きなチャーシューがのる(筆者撮影)

ラーメンについても触れておこう。基本となるノーマルな「ラーメン」は750円。具材は大きめのチャーシュー、ネギと、これまたシンプル。スープは、ベースとなる豚のゲンコツと頭骨、丸鶏を炊き続けて、別の釜でとった新しいスープを継ぎ足していく、久留米ラーメンに用いられる“呼び戻し”という手法で仕込んでいる。骨の髄から染み出る旨味と深いコクが味わえる。

「ウチは朝6時からオープンしていますが、朝と昼、さらには曜日ごとでもスープの濃度が違います。味を均一にすることもできますが、そのためには人もお金もかかるため、今のこの値段で提供することが難しくなります。逆にいつ来ても味が違うことをウリにしてしまおうと。“鈴菌”に感染したバイカーの皆様にも喜んでいただけるのでは(笑)」(鈴木さん)

ちなみに“鈴菌”とは、スズキ製のバイクや自動車を熱狂的に愛する人たちのこと。彼らはホンダやヤマハのバイクに乗る人よりもマニアックな傾向にあるといわれている。

夜限定ラーメン「スズキ改ヨシムラ」

筆者も実際にラーメンを食べさせてもらったが、呼び戻しならではのスープの旨味やコクもさることながら、味わうごとにふわっと広がるほのかな甘味はご飯に合うと思った。

ここのラーメンは鈴菌のみならず、ワーカーにも支持される味であるのは間違いない。ただ、SNSを賑わせている今どきのラーメンと違って、ビジュアルは映えないし、味もそこまで個性的ではない。が、もともとラーメンマニアの受けを狙っていないからこれでよいのだ。

朝6時からオープンしているのは、静岡県藤枝市を発祥の地として焼津市や島田市の通称「志太地域」に広がった食文化、朝ラーを磐田市でも定着させようという試みから。今年7月末までは14時までの営業だったが、8月からは朝昼営業の後に休憩を挟んで、17時から20時半の夜営業も始まるという。

夜限定のラーメン「スズキ改ヨシムラ」(750円)。麺は中太麺になり、朝と昼に提供している「ラーメン」よりもやや茹で時間が長くなる(筆者撮影)

「夜営業では、朝昼に出しているラーメンよりも濃厚な味わいが楽しめるラーメン、その名も『スズキ改ヨシムラ』を提供しています」(鈴木さん)

ヨシムラといえば、スズキと関係が深いパーツメーカーであるが、夜限定のラーメン「スズキ改ヨシムラ」を見て驚愕した。海苔とホウレン草がトッピングされたそのビジュアルは、家系ラーメンそのものだったのだ。あっ、家系ラーメンの元祖で総本山と呼ばれる店も「吉村家」だったのでは……。

「えっ、家系!? いやいや、これは濃厚醤油豚骨ラーメンですから!家系とはまったく関係ありません! 何をおっしゃっているんですか!?」と、鈴木さんは明らかに動揺していた(笑)。この際、ヨシムラでも吉村家でもどちらでも構わないが、夜営業もバイク乗りにバカ受けのようだ。また、ヤマハ本社前という場所柄、昼休みにはヤマハのロゴが入った作業服姿の客も食べに来るという。また、その光景が見たくて店を訪れる客も。今やバイク乗りにとって、ここ「スズキラーメン」は聖地になっている。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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