日本はなぜ、危険ドラッグ蔓延を防げたのか 「危険ドラッグ」を書いた溝口敦氏に聞く

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溝口 敦(みぞぐち・あつし)
●1942年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務などを経て、フリーに。日本における組織犯罪問題の第一人者。著書に『詐欺の帝王』『暴力団』『続・暴力団』『ヤクザ崩壊侵食される六代目山口組』『歌舞伎町・ヤバさの真相』『パチンコ「30兆円の闇」』『抗争』『食肉の帝王』など多数。

──製造は中国?

日本で物質製造を請け負ってくれる化学メーカーはない。技術はあるが引き受けない。多くは中国の青島や上海あたりの小規模な化学メーカーが引き受けている。中国は危険ドラッグの世界的な一大製造センターになっている。

──中国で麻薬所持は重罪です。

危険ドラッグについては法の不備ではないか。製造について罰されることはない。もっとも、中国のその種の化学メーカーも好んではやりたがらない。堂々と行う商売ではない。ほとんどの場合、メーカー出入りの薬ブローカーがいて、日本の業者の注文を聞いて、それを中国の化学メーカーに伝える。

こういう人的なつながりで多少無理な注文も引き受ける。製造過程で不純物が混ざり込むケースも多い。危険ドラッグは一つの薬剤でもその作用がはっきりしないのに、それが二つ重なったらどうなるか。ずさんな製造が行われている。

包括規制にしたことで水際作戦はほぼ成功

その薬物は国際宅配便で日本に送られる。ところが、日本の薬事法の改正、あるいは税関の体制の厳格化で、水際で止める体制ができてきた。製造地を中国ではなくてインドに替えようという動きもあるが、薬物を包括規制にした結果、取り締まりの体制が危険ドラッグの現状に追いついている。新たな薬剤が出るたびに潰すことができているので、使用者が定着しない。依存性はあるが、売り先も減っている。

──日本にもう小売店はない?

大っぴらに昼間に店を開いているところは東京にはもうないようだ。危険ドラッグはほとんどが植物片に薬物をまぶす。そういう作業をし、小分けパッケージにして売る。この作業は原始的でとても製造とはいえない。店頭以外にネットや電話注文での通信販売もする。そういう形では生き残っているようだ。

──なぜ暴力団はやらないのですか。

こういう新興の商売(シノギ)は半グレ集団のほうが強い。考え方の柔軟性、足腰、情報力の面で暴力団は立ち遅れる。たとえば、振り込め詐欺をやっている暴力団もあることはあるが、逮捕されている人たちを見ると、受け子という、逮捕される危険性が高い役割。いわば暴力団が半グレのために使われている。

──覚醒剤は扱います。

確かに暴力団の主要な資金源であり、今、カネを持っている組織は、ほとんどが覚醒剤に手を出しているといわれる。ほかのシノギは見る影もない。暴力団排除条例が導入されて以降、みかじめ料を払っているかと新宿や銀座で聞いても、払っていないとの答えばかりだった。危険ドラッグも従来の暴力団だったらやれるようなシノギだったが。

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──ドラッグ依存症の治療は。

民間の全国組織としてダルク(DARC)という薬物依存の人たちを助けるリハビリ組織はある。施設が数十カ所あり、そこにお世話になるケースが多いのではないか。

──危険ドラッグを合法化しようとした国があります。

ニュージーランドは取り締まる社会費用を考えて、危険ドラッグについて低リスクと証明されたものは許可制にした。だが、1年も経たずに取り消した。あまりに多数のドラッグが申請され、危険性の判断を業者に任せられなくなったからだ。

危険性の判断は一律では済まない。費用をかけても行政が立ち向かっていかねばならない。日本はそれにほぼ成功した。それは国民が危険ドラッグの有害性を認識し、あだやおろそかに好奇心で触れるものではないと、わかってきたからだ。新聞紙面に載ることも少なくなってきたが、今も皆無ではない。要注目であることには変わりがない。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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