米エクソンモービルのビジネス戦略は、株主にとっても、世界にとっても危ない。全米石油審議会の北極圏委員会のリポートを読むと、そんな危機感が強まる。委員長は同社のティラソンCEO(最高経営責任者)だ。この報告書は、米国政府に北極圏での石油・ガス掘削の推進を求めているが、それが気候変動に及ぼす影響については、一言も触れていない。
昨年は観測史上最も気温が高かった。気候変動会議は、今年は12月のパリ会議で合意をまとめるが、協議の先行きが懸念される。各国政府は、人間の活動が原因の気温上昇を摂氏2度(華氏で3.6度)以内に抑えることで合意している。しかし、今の状況が続けば、今世紀末までに4~6度も上昇しそうだ。対策は、化石燃料を減らして、風や太陽光を利用する低炭素エネルギーへ、また低炭素の電力を動力源とする電気自動車へシフトすることだ。
現実に無関心なエクソンの経営陣
世界の主な石油会社、仏トタル、伊エニ、ノルウェー・スタトイル、英蘭シェルなどは、低炭素エネルギーへの移行を促すカーボンプライス制度(課税または許可制度など)を支持し、準備している。シェルは炭素回収・貯留(CCS)技術への投資を増やし、二酸化炭素が大気中に拡散する前に回収することで化石燃料を安全に利用できるか実験している。
だがエクソンモービルだけは違う。同社の経営陣は、自社が絶大な政治的影響力を持つせいで状況が読めなくなり、世界の現実に無関心を決め込んでいる。
2013年の調査では、二酸化炭素排出への関与度について、エクソンモービルは米シェブロンに次ぐ世界第2位にランクされている。同調査では、化石燃料を使い始めて以降の世界の二酸化炭素排出量全体の実に3%以上を同社が引き起こしてきたことが判明した。
国際社会は気温上昇を2度以内に抑えるために化石燃料の使用を制限しようとしているが、エクソンモービルは絶え間なく石油の掘削を続けている。各国政府はどのみち約束を守ろうとしないだろう、と同社は高をくくっている。
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