本家アメリカが「新自由主義」を捨てて目論む復活 「バイデノミクス」はトランプ政策にそっくり

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トランプ大統領は「MEGA」(アメリカ合衆国を再び偉大な国にするという意味)、「アメリカファースト」を掲げ、中国や日本、欧州に対し自動車や鉄鋼などの関税を一方的に引き上げるなど国内産業保護に突っ走った。

こうした共通点について英紙のThe Financial Timesは「バイデンの政策は人間の顔をしたトランピズムだ」と評している。

意外なことにバイデン大統領やサリバン補佐官の発言は欧米メディアで大きな騒ぎになっていない。すでに関連法が成立してはいるものの、一連の発言を、言葉は激しいが選挙向けの単なるキャンペーンであり、実際の政策がどうなるかは不透明とみているのかもしれない。

また長年、アメリカが主張し実践してきた新自由主義的政策に対し、日本や欧州の主要国の対応はアメリカほどモノトーンではなく、社会保障制度などセーフティーネットの構築も進めており、社会の格差や分断もアメリカほど深刻ではないという面もあるのだろう。

大統領選はポピュリズム競演に陥りかねない

振り返れば、新自由主義的経済政策がさまざまな問題を生み出したことは事実であり、その修正はアメリカのみならず主要国の大きな課題にもなっている。「バイデノミクス」にもそうした面があることは間違いない。

とはいえ、「大きな政府」への回帰が単に国内産業の重視や自由貿易の否定などの一国中心主義、保護主義に走るようなことになると、世界の政治や経済に与える影響は少なくない。

最悪のケースは、次の大統領選がバイデン大統領とトランプ前大統領による人気取り目的のポピュリズム的な、自国中心主義的バラマキ政策の競演になることだ。そうした政治風潮が世界的に広がり、保護主義政策が蔓延すれば、世界経済が縮小するとともに各国の財政規律が失われ、累積債務が膨らんでいくことにもなりかねない。

アメリカの経済政策がどういう方向に向かっていくのかは、やはりひとごとではない。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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