最低賃金「1000円到達」次の目標は7年後に1370円 日本も世界標準「50%・60%ルール」を導入せよ

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最低賃金の引き上げにより、最も影響を受けた業種は宿泊・飲食業と小売業です。宿泊・飲食業では60.3%、小売業では52.1%の企業が、最低賃金の引き上げの影響を受けました。

ここで、業種ごとの生産性に目を向けてみましょう。宿泊・飲食業の生産性が194万円と最も低く、全産業の546万円の平均に対して、35.5%しかありません。従業員数は4番目に多いので、宿泊・飲食業が最も日本全体の生産性を低下させている業種だと言えます(図表の「寄与度」とは、各業種がどれだけ生産性の平均値を上げている/下げているかを示しています)。

これらの業種の生産性が低いため、この業種で働く人が増えるほど、その影響は大きくなります。日本では製造業が生産性を最も引き上げているのですが、その引き上げ分が宿泊・飲食業の低い生産性のおかげで、ほぼ完全に相殺されてしまっていると言えます。

宿泊・飲食業や小売業では非正規雇用者が多く、最低賃金で雇用されている人の割合も最も大きいので、最低賃金の引き上げによって、当然ながら最も大きな影響を受けたのです。

宿泊・飲食、小売業、サービス業は最低賃金依存型業種

最低賃金とは、人を雇用する以上、必ず保証しなくてはいけない、本当の意味での賃金の最低水準を意味しています。

法律で決まった賃金の最低水準ということは、この賃金を払えない企業は人を雇ってはならないということですから、国が定めた企業の生産性の最低レベルを示しているとも言えます。実際、最低賃金を引き上げると付加価値が増えるという分析もされています。

ある意味では、宿泊・飲食、サービス業、小売業は、最低賃金依存型の業界です。宿泊・飲食業や小売業は賃金が低いため、生産性が低いビジネスモデルが成り立ってしまっているのです。

業界内では、付加価値を高めるのではなく、賃金を抑えて価格を引き下げることで競争が行われ、ダンピングが生じやすくなっています。

また、付加価値が低いので大きな儲けを生み出せず、結果として設備投資をする余力は生まれません。しかし、賃金を低く抑え込んでいても、これまでは働いてくれる人が確保できていたので、経営者は設備投資を行う緊急性を感じられなくなっているのです。

つまり、賃金が安いために価格が低くなり、価格が低いため賃金が安いという、絵に描いたような悪循環が生じてしまっているのです。生産性が低いから賃金は上げられない、賃金を上げないから生産性を上げる必要もない、出口の見えない悪循環です。

こんなことを続けていると、企業も労働者も疲弊し、いずれは立ち行かなくなるのは火を見るより明らかです。

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