資生堂、屋台骨の日本事業が「赤字転落」の深刻 「TSUBAKI」など日用品事業の売却で起きた誤算

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資生堂の日本事業は、従業員数が全体の約4割を占めており、人件費やオフィス関連の経費などの固定費が重い。そんな中で業績を下支えしてきた日用品事業が剥落したことで、中・高価格帯の化粧品ブランドの売上高だけでは限界利益をカバーできず、赤字に転落してしまった。

中・高価格帯のスキンケアは「粗利率が優れている」(魚谷CEO)が、百貨店売り場の美容部員の人件費など固定費が重くなる傾向にある。対して低価格帯の化粧品や日用品はドラッグストアなどへの卸販売が主な販路で、粗利率は低くても販管費は抑えられる。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子シニアアナリストは「パーソナルケアの売却はもったいなかったと思う。日本の化粧品市場は(低価格な)マス化粧品が7割を占め、ドラッグストアはこれからも重要なチャネル。中・高価格帯だけで日本市場の中での存在感を維持するのは難易度が高い」と懸念する。

実際に5月の決算説明会で資生堂の横田貴之CFO(最高財務責任者)は、日本市場について「低価格帯市場は、当社の想定以上に強く伸長している」と語っている。

存在感を高めるロート製薬と花王

資生堂が注力領域を切り替えたことで、ドラッグストアでの販売動向にも変化が生じている。低価格帯のセルフ化粧品が勢いを増しており、中でもロート製薬の「メラノCC」ブランドの売り上げは、2022年3月期に前年比67%増の116億円と絶好調だ。今やロート製薬の売上高の6割以上を化粧品が占めている。

前出の佐藤アナリストは「資生堂が低価格帯領域に力を入れなくなったことで、花王やロート製薬が同分野で飛躍しやすくなっている。手頃な価格で高品質な商品を打ち出すマス戦略を資生堂ならできたのではないだろうか」と指摘する。

資生堂が日本事業の浮上に向けて力を入れるのが、中価格帯ブランドのテコ入れだ。魚谷CEOは「『エリクシール』は化粧水と乳液を昨年リニューアルして好転した。それ以外のカテゴリにも今年(2023年度)手を打ち、2~3年間で底上げしていく計画」と自信を見せる。

藤原憲太郎社長兼COO(最高執行責任者)は「低価格帯から中価格帯への流入を獲得し、トレードアップを促進している。研究開発力とマーケティング力で、美白の価値をしっかり伝えていけば、売り上げが改善できる」と意気込む。2025年までの3年間で、「エリクシール」を含む複数ブランドへのマーケティング費用を1000億円積み増す方針だ。

大和証券の広住勝朗シニアアナリストは「資生堂の場合、高価格帯は比較的安定的に伸びている。あとは中価格帯『エリクシール』の成長次第」と評価する。

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