あなたの住んでるマンションの知られざる"寿命" 「長寿命化」への取り組みがグッと進む背景事情

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④「修繕積立金の運用益、借入金の金利、物価、工事費価格、消費税率等の変動」の部分については、そもそも修繕積立金のあり方そのものについての課題でもある。修繕積立金を積み立てる方法には「均等積立方式」と「段階増額方式」がある。

前者の均等積立方式ではあらかじめ必要な金額を算定し金額を設定した後、その後は長期間にわたり一定金額を積み立てていく方法だ。目標金額に対して当初は負担が大きいものの、将来的に大幅な増額がないため、国交省が推奨する方式となっている。

後者の段階増額方式の場合、新築当初は金額を低く設定されている。これはマンション販売時に入居後のコストを低く感じさせるために採用される場合が多い。

しかし、その後必要に応じて、段階的に増額していくことになるため、必要となるコストは均等積立方式と変わらないが、入居後一定期間を経て、管理組合総会で修繕積立金の増額について審議、可決を経て増額が決まるため、居住者の合意を得るのが難しい側面があるのは否めない。

管理組合会計にとって、課題を抱える結果となってしまう。均等積立方式の導入を含めた修繕積立金のあり方について議論、検討する必要もあるだろう。

大規模工事発注の選定は?

最後に大規模修繕工事の施工会社の選定方法についてあらためて言及しておきたい。選定方法は大まかに①管理会社(系列会社を含む)特命発注方式、②設計・監理方式、③プロポーザル方式(企画・提案力比較方式)が存在する。どの方法を選択してもメリット・デメリットがあるため、内容を十分に理解したうえで選択することが大切になる。

例えば管理会社との信頼関係があれば、「特命随意契約」という形で任せてしまう方法もある。手間が比較的少なく、迅速に進められる面ではメリットもある。

しかしながら、今回国が推奨する「長寿命化」など、どれだけ工事に反映されているかは見えにくくなる。マンション個々の事情が配慮されず、保証を長くするためだけの、名ばかりの「長寿命化」工事に過ぎず、内容は変わっていないというケースもあり得る。

談合のリスクをはじめ、管理組合が主体となって、意見や要望を伝えることができれば起こり得ないことでもある。このような場合は、比較的カスタマイズ的な要素の大きいプロポーザル方式を選ぶのも一案だ。

施工のパートナー選びで迷ったり、不安を感じたりした場合は一度立ち止まることも選択肢の一つとなる。マンションの寿命を延ばし、将来にわたって長く利用していくためには、大規模修繕工事の発注方法や計画自体を見直すことから始めなければならない。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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