居酒屋チェーン改め「焼肉の和民」の意外な強み 酒類含めほとんどのメニューが「429円均一」

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なお、今回訪ねた大鳥居駅前店ではカウンター席も備えており、「アルコールと単品焼肉」という客が多い。食べ放題を利用するのは3割程度という。

ワタミグループ本社近くに第1号店としてオープンした大鳥居駅前店(写真:ワタミ)

また羽田空港から近いこともあり、インバウンドも多いそうだ。

しかしアルコールを含めて3000円で焼肉をお腹いっぱい食べられるという、このコストパフォーマンスを実現できる理由はどこにあるのだろうか。

一番は、特急レーンと配膳ロボットの導入で人件費を抑えていることだそうだ。

なお、タッチパネルで注文でき、特急レーンですぐに運ばれてくる同チェーンの仕組みは、店員に何度も注文するのを申し訳なく思ってしまう筆者としては、非常に使いやすいと感じた。

「若いときに刻まれた印象は一生続く」

さらにA4以上のランクの牛肉をブロックで仕入れ、店内でカットを行うことで、高品質、コストダウンを実現している。「どこを切り取れば最もおいしくなるか」は仕入れるブロックごとに異なるため、供給元であるカミチクと綿密に打ち合わせているのだという。

このようにコストは抑える一方で、肉の品質を最大限追求していることが、客に「高コスパ」と感じさせる一番のポイントとなっているのだ。

マイルドな辛さの中にコクがある海鮮チゲ。はっきりした味わいのメニューはどこでも人気のようだ(筆者撮影)

なお、アルコールもほとんどのメニューが429円と安いが、さらに半額に近い218円になる「ちょい飲みキャンペーン」をこれまでに3回行ってきた。認知を広めるために利益を度外視して展開してきたとのことで、残念ながら当分実施されることはないそうだ。

現在店舗数は25店舗。将来的には拡大を考えているが、物価高や人件費の上昇等、経営リスクが高まっている国内については当面慎重に構える。特急レーンは確かにコストダウンや人手不足への対策となるが、導入コストがかかるのもまた事実。一気に手を広げるのはリスクが高い。当面は海外の店舗立ち上げに集中するという考えのようだ。

同チェーンの面白いところは、ターゲットとして若年層を重視していることだろう。低い価格設定や、ボリュームのあるメニュー、スイーツの充実などもそうだが、TikTokやYouTubeなど、若者の間で使用されているメディアを通じた情報発信を行っていることなども挙げられる。

ワタミ執行役員焼肉営業本部長の新町洋忠氏。23歳のときに渡邉美樹氏の著作に感銘を受けて入社したそう。海外展開も含め、同社の焼肉業態を担う存在で、自ら肉のカットも行うという(筆者撮影)

「若者こそが、焼肉を一番食べたいお客様だと思うんですね。それに長く続くブランドをつくるポイントだとも考えています。なぜなら、若いときに刻まれた印象は一生続くから。自分も若い頃、飲み会と言えば『和民』で、大人になっても利用していた。今、当チェーンのお客様になってくれた若者はきっと、長く食べ続けてくれると思います」(新町氏)

以上、焼肉の和民の実力について見てきた。正直なところ、「和民」の名称からあまり本格的な焼肉店を想像できていなかったが、食わず嫌いだったようである。しかし同じように考えている人はまだまだ多いのではないだろうか。

「居酒屋チェーンの和民」として刻まれた印象を、いかに覆すか。同チェーンの勝負はここにかかっているように思われる。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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