不仲でも「離婚しない夫婦」幼い娘が体験した地獄 大学4年で知った「父に隠し子」に娘はなぜ絶望したか

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小さい頃から人の顔色をうかがって生きてきたので、「自分がこういうことをしたら嫌われるだろうか」とつねに考えてしまう癖も抜けません。いつも気を張っているので、リラックスした気持ちでやりたいことに飛び込んでいける人が、すごくうらやましいのだそう。

「結婚したい」「子どもが欲しい」と思えない

あまりポジティブに「結婚したい」「子どもが欲しい」と思えないことも、これまで体験してきたことの影響です。結婚したい気持ちもあるものの、式に親を呼びたくないし、もし結婚しても子どもは欲しくない気がする、といいます。

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「虐待されてきた子どもは将来虐待してしまう、みたいな言説があるじゃないですか。あれを見るたびに傷つきますね。わからんでもないなとは思うんですけれど。母の両親も離婚していて、母もたぶん『そうはならないぞ』と思って、結婚して子どもを育ててきたと思うんですけれど、私はその被害にあったわけで」

虐待されて育って、実際に虐待してしまう人もいれば、しない人も少なからずいる。そのことも取材者として伝えていかねばと感じます。

ちょっとほっとしたのが、お姉さんについての話です。

「私の場合、似た気持ちをずっと共有してきた姉がいたことはよかったと思います。姉がいなかったら本当に、いま生きていないと思う。子どもの頃は仲良くなかったんですが、大人になってからはめちゃくちゃ仲が良くて、いまも毎日連絡を取っています」

ただし、姉にもいま芽衣さんが住んでいる場所は教えていません。姉はいまでも母とよく会っているので、姉から母に芽衣さんの居場所が伝わることを避けたいからです。

傍目に恵まれた人生を送っていても、芽衣さん自身の気持ちが晴れないことには意味がない。もどかしいな。筆者のそんな思いを、彼女は察したのでしょう。

「友達にも、なんで芽衣はそんなに自信ないの? って言われます。もっと調子に乗ってもいいじゃんって」

そう、調子に乗ってくれたらどんなにいいか。本当にそう思います。

取材を終えて店を出ると、陽は少し傾いていました。楽しそうでもなく、ふさぎこむ風でもなく、芽衣さんは静かに東京の街を歩いていきました。

本連載では、いろいろな形の家族や環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。周囲から「かわいそう」または「幸せそう」と思われていたけれど、実際は異なる思いを抱いていたという方。おおまかな内容を、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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