「コレステロールの摂り過ぎは悪い」はウソ? 市場規模2700億円の治療薬に影響はあるか

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2014年9月に米アムジェンが米国、欧州で世界初の承認申請を行い、日本ではアステラス製薬とアムジェンの合弁会社であるアステラス・アムジェン・バイオファーマが今年3月に承認申請した。仏サノフィ、米ファイザーも開発を進めている。

PCSK9阻害薬は、スタチンが効かない患者や、家族性高コレステロール血症の患者などが主な対象となる見込み。LDLコレステロールを下げる力が非常に強く、スタチンとの併用療法により、臨床試験では患者によってLDLコレステロールが10mg/dL程度まで下がるケースも見られた。

新薬によってコレステロール薬市場が盛り返せば、製薬会社にとっては万々歳だが、PCSK9阻害薬が売り上げを伸ばせるかについては懐疑的な見方もある。バークレイズ証券の関篤史アナリストは、二つの懸念点を指摘する。一つは、高くなりそうな薬価。スタチンの後発品なら1日10セント程度の負担で治療ができるが、注射剤のPCSK9阻害薬に積極的に切り替える人がどれだけいるかがポイントとなる。

もう一つは、家族性高コレステロール血症以外の脂質異常症患者による潜在需要だ。関氏は「欧米人に比べて肥満の程度が低い日本人患者において、心臓血管死を長期にわたって減少させる効果が臨床試験で示されるかは、結果を見てみないとわからない」と、特に日本人のニーズを慎重視する。加えて、長期投与により未知の副作用が明らかになる可能性も否定できない。

血中濃度を問題視しない見方も

LDLコレステロールを下げすぎること自体にも、疑問を呈する声がある。富山大学名誉教授の浜崎智仁氏はいくつかの疫学調査から、「コレステロールが少ないほうが死亡率が高い」という、医療現場で現在使われている指針とは正反対の主張を続けている。

浜崎氏は「LDLコレステロールは肺炎などの感染症も防ぐ。スタチン投与によって脳のコレステロールが減少すると、中枢神経障害などの副作用が見られることもあり、コレステロールを下げる薬は不要だ」と話す。

食事からの摂取基準の撤廃、大型製品の特許切れなど、コレステロールに対する見方やコレステロールビジネスを取り巻く状況は大きく変わっている。製薬業界が市場拡大の期待できるがんやアルツハイマー型認知症領域の新薬開発に軸足を移す中、既存薬による治療満足度がかなり高いコレステロール市場が再び大きくなるのかが注目される。

長谷川 愛 東洋経済 記者
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