現役の消費者「高齢者」に気づかない日本のズレ感 五木寛之×和田秀樹(対談・後編)

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和田:そのとおりです。じつは僕も『80歳の壁』に合わせて、団塊の世代向けの映画を作りたいんです。というのも、団塊の世代の人たちは、若い頃、映画館に当たり前に行っていた世代です。ところが、僕等の世代より若い人だと、映画館に行く習慣がある人は少数派です。だったら、かつて映画館に通っていた世代の人が来るような映画を作るほうが、よっぽど当たったら大きいんじゃないかと思っています。

尊敬される老大国をめざせ

五木:国の歴史を見ていくと、青年だったその国がどんどん大人になっていく様子がわかりますよね。イギリスは、老大国として上手く年を取っている感じがしますし、ポルトガルやスペインもそうですね。だから日本も、ジャパン・アズ・ナンバーワンみたいなものを目指すんじゃなくて、経済も政治も文化も成熟していく方向に向かっていかないと。

『80歳の壁[実践篇] 幸齢者で生きぬく80の工夫』和田秀樹
肉を食べるなら朝からがいい。よい睡眠のためには「夜牛乳」と「6分間読書」を。入浴は午後2〜4時が最適等々。お金も手間もかからない、ちょっとした工夫をプラスするだけで、あなたも人生で一番幸せな20年を生きる幸齢者に。大ベストセラー『80歳の壁』が具体的に進化した、決定版・老いのトリセツ誕生

和田:長老として、ケンカしている国に対して「お前ら、青いなあ。戦争で勝ったって得なんかしねえんだよ」みたいなことを言えるような国になってほしいですよね。

五木:ほんとにそう思います。その点で、アメリカは上手く年を取れていないでいる感じがしますね。先輩に大英帝国があるにもかかわらず、まだ若さにこだわっている。和田さんの話を聴くと、日本もまだ若さにこだわっているんじゃないか。

以前、『下山の思想』という本を書いたことがあるんです。そのときに「下山なんて景気の悪いことを言うな」って、さんざん言われてね。でも、豊かなる下山という考え方もあるんですよ。落ち着いていい年の取り方をした国々は、ちゃんと尊敬されてるじゃないですか。

和田:北欧もそうですね。スウェーデンやフィンランドに行くと、何となくほっとするんです。お年寄りと若い人が共存しているし、あんまりガツガツしてない。それなのに何となく豊かなんですね。高い税金を払っても、元を取るのは当たり前だと思っているから、お年寄りが堂々と福祉サービスを受けています。

五木:やっぱり日本は覚悟してね、無理に若作りしないで、本当の意味での高齢文化を作り上げなきゃいけない。尊敬される老大国になればいいんですよ。

(構成:斎藤哲也/写真:岡本大輔)

五木 寛之 作家
いつき ひろゆき / Hiroyuki Itsuki

1932年福岡県生まれ。戦後、北朝鮮より引き揚げ。1952年早稲田大学露文科入学。中退後、PR誌編集者、作詞家、ルポライターなどを経て、1966年『さらばモスクワ愚連隊』で小説現代新人賞、1967年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、1976年『青春の門 筑豊篇』ほかで吉川英治文学賞を受賞。著書に『蓮如』『風の王国』『百寺巡礼』など多数。2002年、第50回菊池寛賞、2010年『親鸞』(上)(下)で第64回毎日出版文化賞特別賞を受賞。累計300万部超のベストセラー『大河の一滴』中国語版が好評発売中。近作に『五木寛之 セレクション』『人生のレシピ』シリーズなど。2022年より日本藝術院会員。

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和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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