ブームから四半世紀、杜仲茶から意外な展開 日立造船が続けたバイオ研究の開花近づく

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もともとは漢方薬のトチュウ。写真はその種子

今からほぼ四半世紀前。バブル世代なら、プラント・機械メーカー、日立造船が杜仲茶(トチュウチャ)で一世を風靡したことを覚えている人も少なくないだろう。

杜仲茶とは、トチュウという中国原産の落葉樹の葉を原料とする健康茶。トチュウ樹皮は「養命酒」の原料にも含まれるなど、古くから漢方薬として使われてきた。その効能に着目し、茶葉のみならずボトル入り飲料として販売したところ、一時は年商60億円を超えるヒット商品に。異業種からバイオ事業への多角化が流行した時代だが、その数少ない成功例となった。

ブームが去った後は植物樹脂素材として研究

当時、駆け出しのバイオ研究者として、杜仲茶のヒットを支えたのが同社の中澤慶久だ。現在の肩書きは技術開発本部開発プロジェクト部バイオプロジェクト室長。日立造船の杜仲茶ビジネス自体は、2003年に20人前後の人員ごと小林製薬へ営業譲渡され、母体のバイオ事業部も閉鎖の憂き目に遭う。

そうした中、中澤はその後も1人会社に残留。「肩身の狭い思い」(同氏)をしながらトチュウ研究の火を点し続けた。それを可能にしたのが大学への「在籍出向」。中澤が持つもう1枚の名刺には、大阪大学大学院工学研究科特任教授と、日立造船の通称、Hitzの名を冠するバイオ協働研究所所長と2つの肩書きが並ぶ。

農学博士号も持つ中澤は、いわばDr.トチュウ。杜仲茶事業の陰で、1990年代後半から彼が探求してきたのは、機能素材としてのトチュウの可能性だ。

トチュウの種を割ると白い糸を引く

トチュウには、ゴムの木のように天然のゴムを産出する特性がある。実や葉や種にゴム成分を含んでおり、割ると白い糸を引くことからもそれが目視できる。

トチュウに限らず、植物がゴムを生成するメカニズムは実はまだ十分に解明されていない。だが、トチュウ由来のゴム(バイオトランスポリイソプレン)は、石油ナフサ原料の化合物(トランスポリイソプレン)に比べ、分子量が高く長さも均一で、耐衝撃性や耐酸性に優れることを実証した。その特性を生かし、トチュウ種子の果皮を原料とする「非可食性バイオマス利用のバイオポリマー」、すなわち植物樹脂素材の開発を進めている。

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