ブームから四半世紀、杜仲茶から意外な展開 日立造船が続けたバイオ研究の開花近づく

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トチュウエラストマーでつくったゴルフボール

「トチュウエラストマー」と名づけられたこの新素材は、すでに実用化の一歩手前まできている。

昨年10月には従来のバイオ素材(ポリ乳酸)に比べて26倍の耐衝撃性が実現し、従来バイオ素材では難しかった産業用途での活用への道が開けたと発表。

今後は炭素繊維や他の樹脂に副材として加えることで強度や弾性を高めるなど、付加価値の高い機能性素材を生み出す。用途は自動車、福祉用具産業、住宅産業などへ広げる構想を描く。

トチュウは毎年実をつけ、種子の状態で長期間の貯蔵にも耐えるため、原料として安定供給が可能だ。中澤らのチームは遺伝子組み換え技術をつかってトチュウ種子の産量を高めるなど、生産コストを下げる研究も行なっている。2011年には中国・楊凌(陜西省)に独資子会社を設立、現地で自社農園と協力農園を構え、原料の安定量産化への布石も打った。

造船会社でトチュウ一筋に

お茶から植物樹脂の研究へ。トチュウに惚れこんだ中澤の企業研究者人生は他に例のないものだろう。

バイオ分野で好きな研究をしていい、と甘い言葉に誘われ、「軽い気持ち」で九州大学大学院出身の中澤慶久氏が日立造船に入社したのは1987年。時まさにプラザ合意後の円高局面で造船不況の最中だった。

日立造船は第二次世界大戦中、日立製作所の傘下に入ったため日立の名を冠するが、戦後の財閥解体で系列からは離脱。独立系として輸出依存度が高かったことで三菱重工、川崎重工業などの同業に比べても円高のショックは大きく、会社は1986年に、明治時代の終わりから営々たる歴史を誇った瀬戸内海の因島造船所(広島県)での新造船からの撤退を発表、7000人もの従業員がリストラの対象となった。

中澤が配属されたのは、因島で創設されたばかりのバイオ事業部。「入社してみたら、毎月フロアごとに人が消えていく」状況のなか、島経済の屋台骨を支えるべく、50人前後の陣容でヒラメ養殖からセロリの水耕栽培など、さまざまなテーマの事業化を模索。その中でたどりついたのが杜仲茶だった。

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