身近な人が「がん告知」避けてほしい余計なお節介 「これ食べて」「大丈夫だよ」「無理しないで」

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また、がんがもう少し進んでいると身体的な苦痛が伴うこともありますが、そんな場合でも、鎮痛剤が処方されて身体的な苦痛はさほどでもないことがあるんです。

確かに、もっと進行したがんや抗がん治療中の場合などでは苦痛がひどいこともあります。しかし、表情を暗くしている本当の理由は身体的な苦痛とは限りません。がん患者がつらそうな顔をしている主な原因は精神的な不安や恐怖であることも多いんですね。そんな人に「どこか痛いのね」などと言えば、

「ああ、自分の心は誰にもわかってもらえないんだ」

と孤独感が強くなるばかりなんですよ。

多くのがん患者にとって最もつらいのは、この孤独なんです。一人ぼっちで命の終わりへと向かっている、そのことが何よりもつらいんですね。孤独だという思いに押しつぶされてしまうと、そのうち心を閉ざし、自分の内にこもってしまいます。

私は、そうなってしまった人こそが、本当の病人だと思うんです。

単にがんになったというだけでは、心まで病んではいません。そんな人はまだ病人ではない。がんの恐怖から孤独感に押しつぶされ、心を病んでしまった人こそ、病人と呼ばれるべきなんですね。

そばにいてあげるだけでいい

たとえがんという病気になっても、心まで病んではいけない。

そうならないように手助けすることが、がんになった人の家族や身近な人のすべきことなんです。

では、余計なお節介にならないように、何をしてあげればいいのか。

それは、簡単なこと、ただ、そばにいてあげるだけでいいんです。

何か言うのでも、するのでもなく、近くにずっといる。

それだけでやがて本人に伝わります。

「あなたは一人じゃないですよ。あなたのことが気になって仕方のない人間が、少なくとも、ここに一人いますよ」

ということが、わかってもらえるんです。

別に頼まれてもいないのにそばにいるんですから、これはやはりお節介です。けれど、決して、余計なお節介ではありません。その人にとって本当に切実な、大切なお節介です。

これを私は、半分冗談を込めて、こう呼んでいます。

「偉大なお節介」

身近な人ががんになったら、どうか、この言葉を思い出してください。

樋野 興夫 順天堂大学名誉教授

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ひの おきお

順天堂大学名誉教授、新渡戸稲造記念センター長、恵泉女学園理事長。1954年島根県生まれ。医学博士。癌研究会癌研究所、米国アインシュタイン医科大学肝臓研究センター、米国フォックスチェイスがんセンターなどを経て現職。2002年癌研究会学術賞、2003年高松宮妃癌研究基金学術賞、2004年新渡戸・南原賞、2018年朝日がん大賞、長與又郎賞。2008年順天堂医院に開設された医療現場とがん患者の隙間を埋める「がん哲学外来」が評判を呼び、翌年「NPO法人がん哲学外来」を設立し、理事長に就任。これまで5000人以上のがん患者と家族に寄り添い生きる希望を与えてきた。その活動は「がん哲学外来カフェ」として全国各地に広がっている。

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