山手線事故、防ぐチャンスは3度あった? 現場からの情報が放置された"空白の6時間"

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ほかの情報と同様にまとめて2時に伝えられる仕組みになっていたのかもしれない。ただ、「安全にかかわる情報は最優先で伝えられるべき」(井口氏)で、もっと早く設備担当者に伝わっていれば、すぐに現場に確認に出向くこともできただろう。

そして、第3のチャンスは始発列車に同乗した作業員の目視確認だ。「作業員が列車に乗った状態で確認するのは手順どおり」(JR東日本)というが、やはり現場に出向くべきだったのではないかと悔やまれる。12日の日の出時刻は5時13分。まだ薄暗い中で走行した列車からの目視のため、危険性を見過ごした可能性はある。

JR東日本が事故を起こした意味

事故から一夜開けた13日。JR東日本は管内の電化柱25万本の緊急一斉点検を開始した。線路脇にある22万本についてはゴールデンウィーク前に、残り3万本については5月下旬まで点検を終えるという。一斉点検を行うことで増えるコストは決して小さな額ではない。

14日には、事故を重く見た運輸安全委員会が調査に乗り出した。事態の成り行きをほかのJRや私鉄各社も注視している。「手順どおりに作業していても倒壊したとすると、他社にも一斉点検が波及するかもしれない」(私鉄大手)。

実は電化柱が傾くこと自体、特段珍しいことではない。ただ、どの鉄道会社も倒壊の危険性があると判断すれば、即座に対策を講じてきた。それに引き替え、JR東日本は「すぐに倒壊する危険はない」と判断して、工事を3日間も先送りしたことが今回の事態を招いた。

そもそもJR東日本は、トラブルが絶えないJR北海道の安全管理体制を支援するため、安全部門の幹部を同社に派遣している。つまり、同業他社の安全運行を支援する立場なのである。日本最大の鉄道会社として、すべての鉄道会社の模範であるべきJR東日本が引き起こした今回の事故は、それだけ重い意味を持つ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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