JR北海道、青函トンネル事故に見えた教訓 地の底で直面したトラブルにどう向き合うか

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JR北海道のマニュアルには「車内に煙が充満するなど生命身体の危険が生じた場合は、列車外への避難を実施する」との規定がある。車外への避難はまさにマニュアルどおりの手順であり、実際に事なきを得た。

今回は竜飛定点からあまり離れていなかったため、徒歩での移動となった。それでも距離にして2.4キロメートルある。青函トンネル53キロメートルの全長において、定点は2カ所しかない。もし、定点からずっと離れた場所で停止したら、最悪の場合、乗客はトンネル内を10キロメートル以上も歩いて避難することになる。

あくまで状況次第だが、乗客は車外に避難せず、煙が出た車両から離れた車両に移動して待機するという選択肢もある。たとえば東海道新幹線の車両には、炎や煙を遮断する防火扉が設置されている。火災の鎮火を待って別の列車に牽引してもらって、あるいは救援列車に乗り換えてトンネル出口に向かばよい。

トンネル内事故のリスクとどう向き合うか

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JR東海が2012年に実施したトンネル内事故の対応訓練

ほかのトンネルはどうか。新幹線が走る長大トンネルの場合は、工事作業などに使う斜坑が避難用通路として活用されることが想定される。青函トンネルと同じく海底を通る山陽新幹線の新関門トンネル(全長18.7キロメートル)は「7カ所の斜坑があり、状況に応じて避難誘導に使う可能性はある」(JR西日本)という。

そうはいっても、斜坑はあくまで作業用のトンネル。勾配もきつい。暗いトンネル内で転んだら、負傷する可能性もある。現在建設中のリニア中央新幹線では、大深度地下の長大トンネル内で停止を余儀なくされた場合、停止位置から最寄りの駅または立坑まで2~5キロメートル歩いて移動することを想定している。

近年、JR各社では、トンネル内でのトラブルを想定した避難訓練も始めている。JR東日本とJR西日本は、北陸新幹線開業の前に飯山トンネル(全長22.2キロメートル)で救援列車に乗り移る訓練を行った。JR東海は、トンネル内で緊急停車した列車から降りてトンネル出口まで歩行する訓練を行い、昨年の総合事故復旧訓練では車いすや目の不自由な乗客の誘導訓練を実施した。

ただ、トンネル内を歩く距離もせいぜい数百メートルだ。暗いトンネル内でいろいろなタイプの乗客が長い距離を歩くことによって生じる危険性は、こうした訓練で考慮してもよい。

今年3月には北陸新幹線が金沢まで延伸し、来年3月には北海道新幹線がいよいよ開業する。長大トンネルへの依存度は増すばかりだ。JR各社は事故を起こさない安全面での対策はもちろんだが、万一の際の避難方法についてもさまざまなシミュレーションを行うべきだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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