50歳がんで逝った妻が残した3年間の闘いの記録 夫が「亡き妻の音源」を使って発信を続ける理由

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夫は可能な限り診察に立ち会い、副作用でしーらさんの脱毛が始まる前からスキンヘッドにするなど寄り添ってくれている。息子たちもおのおのでできることをし、ネットやリアルで知り合った同病の友もエールをくれる。そうした励ましにブログやSNSで何度も言及しており、心の支えにしていたことがうかがえる。

2010年12月31日のブログ。夫婦でスキンヘッドになった写真を添えている

1年健診で転移が見つかる。しかし失わない抑制

その後も心が折れるような事態は身体の内と外から次々に襲いかかってくる。

抗がん剤治療中も無理を押して参加していたダンス教室から「何かあったら責任問題になる。自己責任で済む問題じゃない」と告げられ、諦めざるをえなくなった。オンラインとオフラインで親交を深めた同病の友との死別が繰り返し訪れ、心が揺れ動いた。放射線治療後も再発を恐れる日々。

そして手術後の1年健診で肝臓に転移の疑いがあると告げられた。より精密な検査を受けるため、主治医が診察室から別の医療機関に「至急」と告げたうえで予約を入れたと描写している。

<この日がずっと怖かった。怖さでこのところ、体調までおかしかった。嫌な予感がしてた。今朝の夢見も悪かった。ダンスのレッスンを眺めてるんだけど、眺めてる自分は魂だけで実体が無かった、という夢。転移したらダンスやめたせいにしちゃうぞ、ってずっと思ってたからあんな夢見たんでしょう。とりあえず2011年11月29日、今日はまだ元気です。>
(2011年11月29日「術後1年検診、ひっかかりました。」)

肝臓からは7~8個の腫瘍が見つかった。

ブログの説明文には「サラーマトは健康という意味です。乳がん完治まで書きたいです。」と書いたが、しーらさんの中で完治のビジョンがかすんでいく。それでも「自分にばっちり合った治療に当たれば、10年生存も夢じゃない」と気持ちを立て直す。

「サラーマトの記」のブログ説明文

が、主治医の口から出たのはもっと短い時間だった。2011年12月21日の日記のタイトルに「がんばる人で2年、だって。でも負けませんよ~だ」とある。

次ページ旦那ごめん。息子達ごめん。
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