防衛力強化で石垣・与那国に生じる「不安の正体」 タモリさん番組で「新しい戦前になる」と発言

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〇住民の「頭越し」に候補地が選定され、市が受け入れてきたこと
〇基地容認派の人たちも軍事基地を望んでおらず、「災害時の対応で自衛隊が必要」と考え受け入れてきたこと
〇住民説明会の予定がないばかりか、過去には住民投票も握りつぶされてきたこと

市民に取材をすると、上記のような理由で、怒りというよりもあきらめに近い声が聞かれる。マンゴー農家で「石垣市住民投票を求める会」代表の金城龍太郎さんはこう語る。

「石垣市の自治基本条例では、有権者の4分の1の署名で住民投票請求が可能だったのですが、条例から住民投票に関する項目が削除されてしまったのです。これでは反対派だけでなく賛成派も声を上げられません」

「石垣市議会は反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つミサイルの配備を容認しないとする意見書を可決しています。でも私たちは『どうせ配備されるんだろ?』と思っています。市が大規模なバーベキュー大会を企画しているのも、基地への批判をそらす意味がある気がします」

宮古島でも聞こえる「戦争の足音」

先島諸島で最も多い5万5000人の人口を持つ宮古島。石垣島の年間140万人には及ばないものの、コロナ禍以前は年間100万人あまりが観光に訪れていたリゾートの島だ。その宮古島は、今年6月に開業する外資系大型リゾートホテル(ヒルトン沖縄宮古島リゾート)への期待が高まっている。

「台湾有事の話はもちろん知っていますが、宮古島市全体の雰囲気でいえば、観光需要に目が行っています。『台湾有事? まさかね』という感じ」

筆者の取材にこう語るのは、地元のコミュニティラジオ「FMみやこ」でパーソナリティーを務める黒澤秀男エフエムみやこ代表取締役社長だ。ただ、「『戦争の足音』は感じる」と語る。

国にとっては宮古島も重要な戦略拠点の1つだ。2019年に陸上自衛隊の駐屯地が設けられたのを皮切りに、翌年には地対空および地対艦ミサイル部隊が置かれた。弾薬庫や訓練場の整備が続き、反撃能力を持つミサイルの配備も現実味を帯びる。

対する中国も、2022年12月16日に続き、今年1月1日にも、空母「遼寧」やミサイル駆逐艦などを宮古島と沖縄本島の間の海域で航行させている。遼寧がこの海域を通過したのは13度目だ。加えて島の上空では、中国空軍の無人偵察機も確認されるようになった。日中双方にとって、宮古島と周辺海域は軍事面での要衝なのだ。

宮古島や前述した石垣島では、2016年2月、上空を北朝鮮の弾道ミサイルが通過するという出来事に見舞われた。そのときは、防衛省がPAC3(地対空誘導弾パトリオット)を配備し、迎撃態勢を整えた。幸い、ミサイルは上空を通過して落下したが、相手が中国で、しかも「ここが要衝」とみて攻勢をかけてきた場合、これを迎撃するのは容易ではない。

「自衛隊基地ができた頃、反対ではなかったのです。ただ、反撃能力ミサイルとか弾薬庫増設といわれると抵抗があります。特に弾薬庫は住宅地のそばですから。今は民間機専用の下地島空港も、『屋良覚書』(1971年、当時の琉球政府と国が交わした、空港を軍事利用しないための合意文書)があるものの、有事になれば基地化するかもしれません」(島民)

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