文民統制の放棄!なぜ「空母」が生まれたか 護衛艦「いずも」は、護衛能力のない被護衛艦

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また「いずも」には別の欠点もある。それはほかの艦に給油をする能力が付加されていることだ。これは平時の演習航海では便利だが、有事には極めて危険である。そもそも「ヘリ空母」である「いずも」はほかの護衛艦よりもはるかに多くの航空燃料を搭載しており、被弾をした際の脆弱性が高い。その上さらに艦艇用の燃料まで搭載しているわけであり、守られる対象である被護衛艦の脆弱性が、余計に増している。

給油中の戦闘艦は戦闘ができないし、補給艦との同航を一定時間継続する必要がある。「いずも」が艦隊のほかの艦に給油するということは、同時に艦隊の2隻の「護衛艦」が戦闘行動をとれないことを意味し、この点でも望ましくない。

このような給油機能を持たせたのは、本来必要な艦隊補給艦の数を抑えようというもくろみがあるからだろう。だが「いずも」は燃料や水は補給できるだろうが、弾薬や食料までは補給できない。ハンガーデッキを倉庫にしてヘリで運べば食料ぐらいは運べるが、そうなるとヘリの運用が制限されるし、効率も悪い。それに「いずも」が「ヘリ空母」どころか「補給艦」になってしまう。本来必要な補給艦を手当てせず、「空母」に補給艦のまね事をやらせるべきではない。

給油機能を付加しなければ、「いずも」はコンパクトにできた。そうであれば、建造コストは大幅に安くなったはずだ。同じサイズであれば搭載する航空機や車輌、物資を大幅に増やすことができたはずだ。ハンガーデッキのスペースは限られており、多くの物資や車輌を搭載すれば、その分ヘリの搭載数は減らす必要がある。そうなれば物資の運搬の効率が下がることになる。本来の能力を減じてまで給油能力を付加する必要はない。

問題はほかにもある。やや専門的な話になるが艦首に装備されたバウソナーにも疑問がある。計画当初時点では、ソナーを搭載する予定はなかった。艦隊の中央に位置する旗艦である「いずも」にはソナーは必要ないためだ。「いずも」を「護衛艦」と強弁するために、ソナーを装備したのだろうか。あるいはソナーのメーカーである、NECに天下りの確保のために仕事を与える必要があったからだろう。もし、そうであればバウソナーだけでなく、現在の駆逐艦では装備されることが多い曳航型のソナーも装備するべきだ。

海自には「空母」保有の野望がある?

技術的にみれば「いずも」級のソナーと給油機能を外して、飛行甲板にスキージャンプ台を装備すれば、F-35BのようなSTOL戦闘・攻撃機を12機+ヘリを数機ほど搭載する「軽空母」にすることは極めて容易だ。将来「いずも」級を改良するだけで、極めて容易に「空母」が手に入ることになる。海自には将来、空母を保有する野望があると勘ぐられても仕方ないだろう。

2008年に開催された横浜航空宇宙展で、海自の海上自衛隊幕僚監部防衛部の装備体系課長、内嶋修1等海佐(当時)は講演で、将来多目的空母でF-35のような固定翼機を運用するような構想を披露したこともある。

「専門家」である制服組が言うことがつねに正しいのであれば、文民統制は必要ない、ということになる。だが自衛隊の場合、諸外国の事情に無頓着であり、専門家としての見識がかなり怪しい。しかも組織の内向きの政治を軍事的合理性よりも優先しがちだ。

軍事評論家の田岡俊次氏は『月刊パンツァー4月号』で「(自衛官は)自分の職に精通し、練度には定評があるが、勤務した部隊と使ったことがある装備以上の軍事知識を持つ人は、情報分野の幹部を除けばまずまれです」と述べているが、まさにそのとおりで、自衛隊の将校の専門知識は諸外国の将校と比べて著しく低いというのが、20年を超える外国取材の経験からの筆者の正直な感想だ。

それゆえに政治がより大きな見地から、「専門家」にだまされずに、合理的な判断を下す必要がある。また軍事的整合性よりも政治や外交的な判断を優先すべき場合もあり、それらを総合的に勘案して安全保障をつかさどる必要がある。それこそが文民統制なのだが、残念ながらわが国では文民統制は機能していない。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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