文民統制の放棄!なぜ「空母」が生まれたか 護衛艦「いずも」は、護衛能力のない被護衛艦

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どう考えてもヘリ空母である「いずも」を護衛艦=駆逐艦と強弁するのは、国際的な軍事常識から外れているだけではく、不正直、あるいは論理的な議論や常識が通用しない相手であると思われる。または何か良からぬことを企んでいるのではないかと勘ぐられても仕方ないだろう。

余談になるが、このような日本的な言葉の言い換えがまかり通るのであれば、以下のようなことをフランスの農家が主張したとしても文句を言えない、ということにもなる。「日本は輸入チーズの関税率が30%と高い。しかし、これは発酵食品であり乳の漬物である。漬物と同じ関税を適用せよ」。

ところがわが国は軍事評論家までもが「『いずも』は空母ではない、護衛艦=駆逐艦だ」と海上自衛隊の肩を持つ。確かに、「いずも」は米海軍の原子力空母のように多数の固定翼機の戦闘機や攻撃機、早期警戒機などを搭載でき、強力な攻撃力を有する空母ではない。だが明らかにヘリ空母であり、広義の意味では空母と呼んで差し支えがない。「いずも」は空母なのか駆逐艦なのかと問われれば、明らかに前者であり、これを駆逐艦と強弁するのであれば見識を疑われる。

「いずも」は海上自衛隊の護衛艦中最大

まずは「いずも」の概要を見てみよう。「いずも」は2010年度(平成22年度)に承認された、いわゆる22DDHの一番艦で、旧式化したDDH、「しらね」の後継として建造された。基準排水量は1万9500トンで海上自衛隊の護衛艦中、最大である。すでに就役している16DDHの「ひゅうが」級の1万3500トンよりもさらに大きい。ちなみに諸外国では軍艦の排水量は満載排水量で表すが、海自では基準排水量を使用している。これまた排水量を過小に見せるための姑息な小細工だと思われても仕方あるまい。

DDG、イージス護衛艦である「あたご」級の基準排水量が7750トン(米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦とほぼ同じ)、最新鋭の汎用護衛艦である「あきずき」級は基準排水量が5000トンである。最小のDEである「あぶくま」級は2000トンに過ぎない。どれだけ、「いずも」が大きいか理解できるだろう。

建造に携わったのはジャパン マリンユナイテッド。同社の職員も「いずも」の旅立ちを見送った

写真のとおり、「いずも」は各国の空母や強襲揚陸艦と同様に、全通式と呼ばれる飛行甲板を有している。22DDHの「いずも」は、16DDHの「ひゅうが」級と同様に、旗艦として艦隊の高い指揮能力を持つ。また搭載した多数のヘリコプターを使うことにより、高い対潜水艦戦能力を持つ。

運用するヘリコプターは「ひゅうが」級が哨戒ヘリ3機、救難輸送ヘリ1機の計4機に対して、「いずも」では哨戒ヘリ7機、艦上輸送ヘリなど2機の計9機と、2倍以上のヘリコプターを運用できる(実際は10機程度の運用が可能だろう)。また駐機スポットは「ひゅうが」級が4カ所に対して、「いずも」では5カ所に増え、同時にヘリコプター5機の発着が可能だ。

エレベーターは甲板前部中央に20×13メートルのものが、左舷艦橋後部には15×14メートルのものがある(最大30トン弱の運用が可能)。後部のエレベーターは艦橋の後ろの甲板端に裁ち切り型で設置されているため、エレベーターの面積より大きな航空機、たとえば陸上自衛隊の大型ヘリコプター「CH-47」やオスプレイなどを昇降することも可能だ。

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