賃上げを「安倍政権の圧力」という残念な人々 なぜ17年ぶりの賃金上昇率を評価しないのか

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ところで、すでに1年前の2014年にベアの上昇は始まっていたが、消費増税という「家計から政府部門への大規模な所得移転」が、景気回復が十分ではない中で実現したため、家計の実質所得は大幅な目減りを余儀なくされた。

ただ2015年は、ベースアップを含めた名目賃金の上昇が、所得上昇にダイレクトにつながり、それが家計消費の復調をもたらすだろう。金融緩和強化で始まった経済回復の好循環が、2015年により鮮明になるということである。

重要な点は、2014年に増税ショックでマイナス成長に下振れたにもかかわらず、景気回復が止まらず、労働市場の需給改善がやや足踏みしただけで、2015年の一段のベア上昇が実現しつつあることだ。

なぜ日銀の金融政策の大転換を評価できないのか

これについては、政治からの圧力よりも、緊縮財政政策のショックを、金融緩和による景気下支えにより相殺できたことが最も重要である。つまり、2013年以降のインフレ実現にコミットした金融緩和政策が、企業利益の底上げなどをもたらしたということである。

アベノミクスの本質は、経済安定化策の徹底とデフレ脱却である。「逆エンジン」となった財政政策の逆風をはねのけ、日本銀行の金融緩和策という政策大転換によって、賃金上昇を含めた回復の好循環を実現させた。

最近のインフレ率低下をうけて、インフレ目標政策の意味を取り違えた日本銀行への批判が散見されるが、日本経済は金融緩和強化をエンジンにして、デフレ脱却の道筋を着実に進んでいる。これが、2015年に入ってからの日本株上昇をもたらす、大きな要因になっている。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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