資本主義が静かに衰退を始めていると言えるワケ 「世界経済の3つの謎」をどう考えばいいのか

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そして現在、これは最終段階を迎えている。なぜなら、人々は「新しい」こと自体に価値を見いださなくなってきたからである。つまり、「新しい」ものに飽きたのである。「新しいもの」を消費することは「新しく」ないのである。新しいものを消費することの繰り返しに飽きたのである。

これに企業はどう対応したか。

新しいぜいたく品を売りつけても、人々は飽きている。あるいは、すぐ次の新しいものに移る。賞味期限が短くなっている。これでは、持続的に儲けられない。

そこで、単なるぜいたく品ではなく、ぜいたく品を必需品に仕立て上げ、すべての人々に永続的に消費させるようにしたのである。必需品たるぜいたく品、やめられないぜいたく品、そう、すべては「麻薬」になったのである。

かくして「麻薬」は途上国へ

現在の経済成長は、次々と新しい麻薬を生み出して、本当は必要のないぜいたく品を必需品に仕立て上げて、消費を増大させ続けようと、企業がしのぎを削っているのである。

それが、テレビ番組であり、ゲームであり、スマートフォンであり、SNSであり、動画投稿である。スマホは便利だが、本当の必需品は電話やメールだけといってもいいくらいである。仕事や家族間の連絡が取れれば十分だ。しかし、スマホのほとんどの機能、99.9%はそれ以外のエンターテインメント、暇つぶし、寂しさを紛らわすためにある。

麻薬経済の到来である。ということは、みなが中毒になり、社会はおかしくなる。近代資本主義社会は衰退せざるをえなくなるだろう。

このように考えてくると、冒頭の3つの謎がわかるはずだ。第1の先進国が低成長となった理由は明らかだ。新しいぜいたく品を人々は必要としなくなったのであり、麻薬にも限界があるから、消費はこれ以上増えないのだ。だから、量的拡大という経済成長は起きない。

第2に、経済が拡大しないのに、働き手が不足し、インフレが起きるのはなぜか。ぜいたく品と麻薬の生産にかまけたため、必需品の生産が手薄になり、必需品を提供する労働力も不足するようになったからである。しかし、必需品は儲からないから、それを生産する企業は増えない。よって、食料、資源、単純労働、サービス労働の価格高騰が起きる。

第3に、富裕層は、必需品が高くなっても購入できるから問題ないが、貧困層は生活に苦しむ。実質的な格差が拡大する。新しい製品への開発投資に金が向かわないから、投資はほとんどが金融市場に向かう。金融市場に多額の資金が流入すれば、当然値上がりする。バブルになる。富裕層は、資産を増大させる。

ただし、これは評価額にすぎず、このバブルが持続不可能になったときに崩壊する。ただし、庶民にも投資を勧める社会となっているから、ババをつかまされるのは庶民かもしれない。暗号資産でそれは始まっているが、ほかのリスク資産にも波及するだろう。よって、国内の富裕層と貧困層の格差は広がる。

一方、途上国はまだ前述の経済成長の第1段階および第2段階だったから、高成長が続いた。必需品が普及し、効率化する過程にあった。だから、国家間の格差は縮まったのである。

しかし、まもなく彼らも麻薬経済の第3段階の成長局面に入ってくるだろう。そして、世界全体で近代資本主義は衰退していくのである。

(今回は競馬コーナーはお休みです。ご了承ください)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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