資本主義が静かに衰退を始めていると言えるワケ 「世界経済の3つの謎」をどう考えばいいのか

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略奪、交換の対象となる外部の経済。植民地の経済。ここからの富の流入が新しい需要になって、経済を膨張させた。中南米の銀山からのマネーの流入がインフレを起こしたといわれるが、銀はマネーであると同時に、銀という富だったから、現在の中央銀行のマネーサプライと異なり、実体経済をも膨張させたのである。

そして、西欧の各国内でも、循環経済の外から富が流入した。国王や領主貴族がため込んだ富を、ぜいたくとして消費した。宮廷の周りの職人たちは、宮廷のぜいたく需要で所得を得た。これが支出され、経済は循環でなく膨張を始めた。

革命が起きても、この膨張は止まらなかった。何より、ブルジョワジーたちが堂々と貴族のマネを行ったからである。ぜいたくは、経済の富裕層全体に広がった。経済の膨張、つまり、バブルは始まった。近代資本主義というバブルは完全にテイクオフしたのである。

19世紀の途中まで富の投入は限定的だった

しかし、ここに、さらなる深い謎が生まれる。それならば「なぜ19世紀後半まで経済成長が起きなかったのか。同様に、なぜ19世紀半ばまで人口もはっきりとは増加しなかったのか。産業革命は18世紀にとっくに始まっているのに、数多くの技術革新が起きたのに、なぜ本格的な人口増加や経済成長が始まらなかったのか」ということだ。

上述の需要増加は、第1が外部からの略奪品、交易品であるが、これらは庶民のための必需品ではなく、富裕層のための嗜好品あるいは交換用の商品や商品作物である。第2のぜいたく需要は、まさにぜいたく品である。これらの獲得、生産のために資源と労働が投入された。

つまり、富は、衣食住という生存維持水準の必需品需要を満たすためには投入されなかったのである。だから人口は増えなかった。作物の収量が増えても、人口増加は一時的で、いわゆるマルサスのわな、つまり、食料生産の増加と人口増加のスピードは、前者が算術級数的であるのに対し、後者が幾何級数的であり、圧倒的に大きいから、すぐに食料が不足するようになった。その結果、人口が増え続けることはなかったのである。

一方、ぜいたく品の生産は増え、富裕層の消費は増えていった。しかし、経済全体で見れば、それは限られていた。だから、経済成長も人口増加も全体としては起きなかったのである。

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