陸自特殊部隊「伝説の男」が対テロ戦争を語る 根本にあるのは格差、日本企業も当事者だ

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イスラム過激派組織「イスラム国」によって湯川遥菜さん、後藤健二さんが拘束されたとき、ネットでは「自衛隊で救出できないのか」といった意見が飛び交った。

しかし、人質がどこにいるのかなど基本的な情報すら把握できていない以上、現実に救出作戦は不可能だった。また、政治的にも難しい。日本政府は海外での邦人救出を実行するときの条件として、現地政府の同意を挙げている。この場合はシリア政府だが、その可能性は低いからだ。

特殊部隊がテロと戦うのが世界の常識

 では、仮に前提条件がクリアされるとしたら、誰がその任務を担うのか。
 「世界では、テロとの戦いは特殊部隊が担うのが常識だ」と話すのは、陸上自衛隊で特殊作戦群(特戦群)の創設に当たった荒谷卓氏だ。特戦群は2004年に陸自で初めての特殊部隊として設立され、荒谷氏はその2年前に隊長候補に指名された。

当時すでに40歳を超えていたが、「特殊部隊とは何か」を学ぶために米陸軍特殊部隊・グリーンベレーの教育コースに自ら留学。20代の米兵がどんどん脱落するなかで、半年に及ぶ訓練をやりとげた。帰国後に自身の理念に沿って特戦群を作り上げた荒谷氏は、麻生幾氏の小説『瀕死のライオン』のモデルとされる。現在は退官して明治神宮の武道場「至誠館」で館長を務めているが、いまも陸自では伝説的な存在だ。

特戦群の任務は、ゲリラや特殊部隊への対処とされている。だが、実際にはそれにとどまらない幅広い能力を持った部隊だ。隊員は、まさにエリート中のエリート。陸自のレンジャー課程は実戦さながらの過酷さで有名だが、それを乗り越えた猛者からさらに厳選される。訓練内容などは秘密のベールに包まれており、一般隊員には伺いしれない。実弾を相互に撃ち合うなど、ふつうでは考えられないような訓練をしているとされ、射撃や格闘の技量に関する人間離れしたエピソードが「都市伝説」のように漏れ聞こえてくる。

いま政府・自民党は自衛隊が海外でテロに巻き込まれた邦人の救出に当たれるよう、また海外で米軍やオーストラリア軍などの後方支援をできるように安全保障法制を見直そうとしている。いずれ安倍晋三首相がいうように日本がイスラム国に「罪を償わせる」ときがきて、特戦群がそのために活躍するときがくるのだろうか。

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