相続税・贈与税の「一体化」改正はどこへ行く? 政府議論が始動、注目集まる贈与税の基礎控除

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ただ、資産移転の時期の選択に中立的な税制が意図するのは、どの年齢のときに高齢世代から資産を受け取っても、トータルでの税負担は変わらない、ということまでだ。そのため、さらにもう一段踏み込んで、若年世代への資産移転を促すためには、消費意欲が高い若年期に資産移転を受けると有利になるような税制上の優遇措置も必要という意見も出ている。

若年期での資産移転促進には課題が多い

しかし、資産移転を受けられるのは、譲り渡せる資産を持っている者と密な関係がある者に限られる。より踏み込んでいえば、資産移転を多く受けられるのは、多くの資産を持つ親の子に限られる。そうなると、資産移転の時期の選択に中立な税制といってもその恩恵を受けるのは、資産を多く持つ親の子である。おまけに、消費意欲が高い若年期に資産を譲り受けると有利になる税制措置を設けるとなると、資産を多く持つ親の子にますます恩恵が及ぶ。

すると、資産再分配機能の適切な確保が難しくなる。つまり、経済的な資産格差の固定化を助長してしまう。

わが国で、資産が高齢世代に偏在しているのを是正すべく、資産移転の時期の選択に中立的な税制を志向しながらも、それだけに注力すると、資産格差の固定化を防ぎきれない。加えて、高齢世代から若年世代への資産移転を促すことを税制においても目指そうとすると、若年期に資産移転を受けたほうが有利になるため、資産格差是正や資産移転の時期の選択に中立的な税制と齟齬をきたすことになる。

では、議論はどちらの方向に向かうだろうか。

まず、巷間出ている噂でいえば、贈与税での暦年課税で設けられている基礎控除110万円が廃止か縮減されるのではないか、ということがある。この基礎控除110万円というのは、贈与税が課される際、1月から12月までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から110万円を差し引くことができ、110万円を上回った額に対して課税されるという仕組みである。したがって、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下ならば贈与税はかからない。

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