歌舞伎を見ないビジネスマンが損すること 元外資系の英国人と日本人、日本文化を語る

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成毛 眞●1955年生まれ。書評サイトHONZ代表、インスパイア取締役ファウンダー、スルガ銀行社外取締役、早稲田大学ビジネススクール客員教授、元マイクロソフト社長。雅号は半覚斎(撮影:今井康一)

アトキンソン:実は、軽井沢の別荘が、先代の社長と隣同士なのです。「経営をみてほしい」としつこく言われていて、ゴールドマン・サックスを引退してから「なら、一度くらいは」と、現場を見に行くことにしました。

私が銀行にいたのは、金融業界が特に腐っていた時代です。それと比べると、文化財の修復の世界は聖地のようなところだと期待して見に行ったのですが、同じように腐っていました。悪い慣習がいくつもあったのです。なので、常識的な経営をすれば、この企業は立ち直るだろうと思って引き受けました。

歌舞伎を見るようになったきっかけ

葛西:成毛さんが歌舞伎をご覧になるようになったのはいつ頃からですか。

成毛:マイクロソフトを辞めたのが2000年5月ですから、頻繁に見るようになったのはそれ以降です。もちろんそれ以前も、海外から歌舞伎を見たいという客が来れば連れていっていましたが、歌舞伎座の昼の部は11時から、夜の部でも16時からなので、ビジネスマンにとって接待以外では時間調整が難しいものです。それでも多くのビジネスマンにとって無理してでも観るべきものだと『ビジネスマンへの歌舞伎案内』という本を書いたのですが。

葛西:なぜ、歌舞伎を見たほうがいいのでしょう。

『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)

成毛:私の娘は商社で穀物のトレーディングを担当しているのですが、彼女の内定が決まってから歌舞伎座に頻繁に連れ出しました。経験上、歌舞伎見物とゴルフはグローバル企業に勤めるものにとって必須科目だと知っていたのです。

案の定、海外から来た顧客が「歌舞伎を見たい」、「相撲部屋に稽古を見に行ってちゃんこを食べたい」と言ったそうです。そう言われた時、切符の買い方も知らないのと、何回か見ていて、ある程度説明ができるのでは大違いです。グローバル企業といわれる会社で働く人には、歌舞伎は必須の知識であり、経験です。

ですから、若い人はなんとか年に1回でも時間を作って、歌舞伎座なら1500円程度で見られる「幕見席」でいいので、見ておくといいと思います。幕間の食事にも、ゴージャスな吉兆の弁当もあれば、歌舞伎そばという手頃な値段のものもありますから。誰でも楽しめる芸能なんです。

葛西:まだご覧になっていない方も、少し早く見ていれば、先日亡くなられた坂東三津五郎さんの舞台にも間に合ったかもしれませんね。

成毛:実は三津五郎さんとは行きつけのバーが同じでして、この本が出たときにも、その店のおかみを通じて療養中の三津五郎さんに本を渡し、元気になったらまた一緒に飲みましょうと伝えたばかりでした。訃報を聞いて本当にがっくりしてしまいました。

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