"産後うつ"へのケア、今から何が必要なのか 産後の日(3月5日)、この機に考えるべきこと

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一方で女性の出産に携わる現場はどうなのか。

「国よりも先に東京都は産後ケアに取り組みました。2007年度にモデル事業として『子育てスタート支援事業』を開始し、支援を擁する家庭に対して心身ともに負担が大きく不安定になりがちな産後の一定期間に母体のケアや育児指導などの支援を打ちだしたのです。同事業は2010年から本格的にスタートしましたが、実際には江東区、世田谷区、府中市、多摩市(2014年度は休止)の4カ所しか稼働していないのが実態です」(公益社団法人東京都助産師会の竹中久子会長)。

「原因は東京都がプランを立てて予算を付けても、実施主体の市町村内でそれ相応の対応施設がないことです。このたびも政府が『妊娠・出産包括モデル事業』をスタートさせましたが、事業を実施する施設として、ショートステイでは6床以上が必要で、デイケアは20人以上を収容できるスペースを確保することが要件になっている。これでは手を挙げたくても、多くの助産院にはハードルが高すぎます」(竹中会長)。

実際に、東京都助産師会の会員で入院設備を持つ事業主はおよそ30あるが、そのうち上記の要件を見たすのは3~4に過ぎないという。

「助産師として、もっと柔軟性のある運用を望みたいですね。たとえば母親が私たちのアドバイスを必要とする場合、すぐに対応できるような仕組み作りなどです。私見ですが、子ども広場やショートステイ、デイケアなどに助産師を配置することで、母親が相談しやすくなるのではないでしょうか」

産褥入院のあり方も、参考に

かつて助産院で行っていた産褥入院のあり方も、参考になるだろう。

「産褥入院とは、助産院で出産した母親が、子育てに慣れていくまで1週間から10日ほどそのまま入院するというシステムです。自治体の補助などは関係なく、各助産院が自主的に運営していました」

出産・子育ての環境整備は国の重要な責務である一方、女性にとって極めてプライベートな面でもある。まずは国の取り組みが始まったが、それをどのように柔軟に運営していくのか。女性が輝く鍵はここにあるのかもしれない。
 

安積 明子 ジャーナリスト

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あづみ あきこ / Akiko Azumi

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。

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