がん患者でも仕事を続けたほうがいい絶対的理由 治療費の問題だけじゃない、働くことの意味

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がんと診断されると、治療に専念しようと決心して、勤務している会社に退職願を提出してから、私の病院を受診する患者さんが少なからずいます。そういう患者さんに対して、私は「ちょっと待って! 撤回できるなら撤回して」とお願いします。

理由は、多くの治療が週1回より頻回に受診する必要がなく、自宅で寝込むほどの副作用もないので、とくに壮年の男性は退職してしまうと、突然暇になってしまい、一日中、がんのことしか考えなくなってしまうからです。

一方、仕事の都合で治療のスケジュールを大きく変更することも避けてほしいと思います。そこまで治療を後回しにして仕事を優先しなくても、働きながらがんの治療を続けることはできます。多くの患者さんが、仕事と抗がん剤治療を両立できていますし、それが可能でなければよい治療とはいえません。

治療の様子を見る休職にする

治療にはお金が必要ですし、いったん退職すると、がんの治療中では、再就職はなかなか難しいでしょう。まずは、休職して様子を見ることが肝要です。医師が発行する診断書があれば、休職を許可しない上司や雇用者はいません。医師の発行する診断書は、こういうときには絶大な力を発揮します。

検査入院なのか、あるいは続けて外科手術を予定しているのかなどによって、休職を必要とする期間はまちまちですので、入院を指示された際に、予想される大体の期間を必ず主治医に確認してから上司に伝えましょう。電子カルテを採用している病院では、診断書の発行も以前に比べて非常に簡単になっています。遠慮せず、主治医に依頼しましょう。

上司の中には、療養に専念したほうがよい、と退職を暗に勧める方もいるようです。しかし、ここで簡単に退職してはいけません。「主治医や家族と相談してからお返事します」と明言は避け、絶対に即決しないでください。

確かに、短期的には職場の皆さんに迷惑をかけるかもしれません。しかし、迷惑をかけても「お互いさま」と考えれば、少しは気が楽になるはずです。

どんな人でも、急にがんと診断される可能性があるのです。好きでがんになる人はいません。日本はすばらしい国ですから、みんなで助け合う「お互いさま」の精神が残っているはずです。国民の半数がいつかはがんになる時代、元気に職場に復帰して、会社の同僚ががんになったときに、今度はあなたが支えてあげてください。

主治医からの診断書を会社に提出しても、上司から退職を勧められるようなことがあれば、会社の産業医と面談すべきです。会社に産業医が常駐しているような大企業や官公庁の場合、面談の予約は比較的容易ですが、中小企業の場合は産業医資格を持った開業医に委託していることが多いようです。

ただ、産業医の資格を持っていても、通常は普通の外来診療をされている開業医の場合は経験に乏しいことがあり、私も驚くような初歩的な問い合わせを受けた経験があります。

いずれにしろ、主治医と緊密に相談しながら対応すれば、がんになったことを理由に退職させられることはありません。

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