「実写版リトル・マーメイド」日本人が批判のなぜ 「白人のアリエル」を求めるのは人種差別なのか

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どうあれディズニーは多様性を許容することを決めたに違いない。2017年当時、ディズニーは日系アメリカ人俳優、ダイアナ・ヒューイを採用し、ミュージカル『リトル・マーメイド』のアリエル役として据え、全米ツアーを行った。

彼女のパフォーマンスは素晴らしい評価を得て、ヒューイは 「これまでで最も層が厚く、素直で、リアルで、なおかつ愛らしいディズニー・プリンセス」とまで言われた。

しかし、当時、観客はほとんどが白人であり、彼女の人種を問題視した。ショーのキャスティング、彼女の外見や歌唱力などを批判する否定的なコメントが、ソーシャルメディアで相次いだのである。つまり、アリエルをほかの民族にしてしまうことに対する批判は、目新しいものではないのだ。

白人は日系人のアリエルを批判し、日本人は黒人のアリエルを批判する。

伝統的には白人であるはずのキャラクターに、有色人種を配役するのは非現実的だという議論はしばしば起こる。だが、信じ難いのは、こうした人々は歌を歌う魚を問題としてとりあげず、「リアリティ」を気にすることだ。これが遠回しな人種差別なのは明らかである。

ベイリーがアリエルに選ばれたことを問題視する日本人がいるなら、このように考えてみてほしい。ハリウッドでは、白人以外の人たちは、人種のカーテンを破って仕事を得ることに必死である。最近のマイノリティは、仕事を得ても政治的な理由が多く、ある時はダイバーシティ採用の一環として、またある時は単なるお飾りとして採用されている。そう、ハリー・ベイリーだって同様のケースかもしれない。

しかし、マイノリティが特にこのような役を得るチャンスはまだめずらしいのだ。

多様性のカギを握るのは観客側

インターネット上で発せられる不満は、ハリウッド中の映画会社の取締役の耳に届くだろう。彼らは、映画での多様性に対して、世界市場がどう反応するのかを見ている。黒人だけではなく、有色人種であるアジア人、インド人、ラテン系、中東系なども含めてだ。

多様性がない、つまり白人が多いほうが見ていて心地いい、というメッセージを無意識にでもハリウッドに送ってしまうと、業界はまさにその通りのものを私たちに提供することになるだろう。

私は個人的に、映画でもっと多様性に触れたい。あなたもそう思わないだろうか。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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