パキスタンの「洪水」ここまで深刻にした真犯人 再建には推定100億ドル、10年はかかる

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「この雨量が数カ月かけて降るのであれば、たぶんそれほど問題にはならないのでしょう」とワシントン州立大学バンクーバー校の気候科学者であるディープティ・シン氏は話す。

しかし実情は、激しい土砂降りが穀物を荒らし、インフラを押し流し、脆弱な社会に甚大な結果を与えているとシン氏はいう。「私たちのシステムはそれに対処できるように設計されていません」。

食料高騰と政情不安に悩まされているのに

パキスタンはすでに食糧価格の高騰と政情不安に悩まされており、リーダーシップが最も重要であるまさにこの時期に、国政は揺らいでいる。イムラン・カーン前首相は4月に辞任に追い込まれ、現政権との権力闘争の中で今月、反テロ法違反の疑いで起訴された。

港湾都市カラチでは、月収100ドル強で衣料品工場に勤める35歳のアフザリ・アリが、再び激しい雨が降ってからこの数日間で、トマトなどの基本食料品の価格が4倍になったと話す。「すでにガソリン価格の上昇のせいであらゆるものが高騰しているのに、今回の洪水で事態はますます悪化するでしょう」。

パキスタンの通信社による29日の報道によると、同国のミフタ・イスマイル財務相は、洪水災害とそれに伴う食糧価格の高騰により、政府としては物資の供給問題を緩和させるため、いまだに緊張関係が続いているインドへの一部の貿易ルートを再開する可能性があると話した。

インド自体今年はひどい干ばつに見舞われ、食糧の輸出が大幅に減少している。パキスタンの決定によって、世界的な食糧危機が長期化するおそれが高まった。この世界的な食糧危機は、主要小麦生産国であるウクライナへのロシアの侵攻勃発以来、小麦や肥料の供給量が激減したことも要因の1つとなっている。

パキスタンにおける経済的および政治的危機の悪化は、パンデミック時代の経済の低迷と貨幣価値の弱まりによって拍車がかかり、今年の洪水災害によってさらに逃れようのない状態に陥っている。同国のアーサン・イクバール計画相によると、被害は推定100億ドルにのぼり、同国の再建には10年近くを要するだろうという。

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