論ずるより創るが楽し 日本総合研究所会長・野田一夫氏②

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のだ・かずお (財)日本総合研究所会長。多摩大学名誉学長。上記2機関ほか、ニュービジネス協議会、県立宮城大学など産・学関係の数々の機関創設を主導し、「初代」責任者を務めた。各界の人脈は幅広く、P・ドラッカーを日本に紹介した人物でもある。1927年生まれ。

大学卒業後の僕の経歴は、一貫して“大学人”だ。しかしこの半世紀、僕は、大学人としての主たる職責を決してないがしろにすることなく、新しい学科・学部・大学・大学院、大学外では、研究所・シンクタンクから企業家団体・会員制クラブに至るまで、さまざまな機関を創る仕事をこなしてきたつもりだ。

「なぜそんなことを?」と問われたら、「時代の要望を満たす機関で、しかも僕に創れそうだと思えば、その実現のための構想を徹底的に練り、これという人々にその必要性を説き、関心を示してくれた人々には、実現のための構想を具体的に詳しく説明する。結果的に、思いもよらない人々の協力が得られ、なぜか必ず実現に向かうものだ」と答える。

「創った後のことは?」という質問にはこう答える。「創設期には僕のような“陣頭指揮型”人間がどうしても必要だが、それが過ぎれば、おのずと“万事調整型”人間に受け継がれる。そして大体その頃には、僕の関心はもっと魅力的な次の“創設”の仕事に移っている」と。

「出る杭は打たれる」の諺を信じない

こうして、傘寿をとうに過ぎた今でも僕は、胸の高鳴るようなプロジェクトに取り組んでいる。一つは、日本最高の立地条件の地に日本最小の専門職大学院を創ること。これによって日本の専門教育に新風を吹き込みたい。いま一つは、高邁な理想と現実的政策を併せ持つ総合特区の創設。この特区に内外の人財を糾合して繁栄を実現し、将来日本が“合衆国”として再建されるための先駆的モデルにするのが究極の目的だ。

でもそれでは、前回の“海外悠々生活願望”と矛盾するではないか、とお考えなら、それは誤解だ。僕は母国を愛すればこそ、日本を支配する“国家”の動きをつねに厳しく監視してきた。だから、戦後米国から押し付けられた民主主義がオンボロになり、劣化の極みに近い目下の日本国家の動向に、警戒を緩めるつもりはまったくない。無能国家がたどる道は二つ。一つは凶暴化(≒極右化)、いま一つは他の国家への隷属(≒属国化)。日本がそうなるようなら、僕は母国を去り、好きな国で悠々と余生を送るつもりだ。ただし限界状況までは、僕は僕なりに日本再生への努力をとことんやり続ける。

一大学人の分際で、と思うやつには思わせておく。僕は子供の頃に学校で教わった「出る杭は打たれる」の諺を信じない。それは、パラノイアぎみの権力者たちが、将来彼らの立場を侵しかねない有能な若者が育たないように、ことさら強調したがる人生訓だと考えているからだ。

週刊東洋経済編集部
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