「男性育休」促進は会社にとって「損」という大誤解 積水ハウスと技研製作所に推進の理由を聞いた

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育休を促進するうえでの苦労は、男性育休への理解を広めることだった。なかでも、管理職への理解を促さなければ、現場レベルでの促進は難しいと考えた。

「単に通達で男性育休の必要性を発信するだけでは、理解は得られません。なので、全社員とその家族向け、育休対象者とその上司向けにそれぞれ、育休説明会を行っています」(簑田氏)

説明会では、育休の意義だけでなく、業務の平準化といった職場への好影響を紹介。参加者アンケートでは「管理職として、何ができるか考えるきっかけになった」、「当たり前に育休が取れる雰囲気にしていきたい」といった感想が寄せられている。

また、「誰が休んでも大丈夫な、強靱な組織になるためには、育休が必要だ」と、経営陣が社内外に発信していることも、育休推進の後押しとなっている。

同社における2021年度の男性育休の取得率は100%となり、そのうち、3カ月以上の長期取得者は、61.5%にものぼる。

今後の課題について簑田氏は、「育休は個人の生き方に関わること。会社としては、育休という選択肢を増やしましたが、あくまで選択するのは社員自身。時代によって望まれる職場環境は進化するので、今後も社員の声を聞きながら、社員や会社、そして社会への貢献に繋がる施策を打ち出していきたい」と話した。

家族にも企業にも好影響の男性育休

男性育休と聞くと、「ママのサポート」というイメージが強い。だが、本来の男性育休は、パパ、ママともに家族のあり方を考え、互いに協力し合う体制を作ることができる期間だ。

また、会社にとっても、育休をきっかけに業務の棚卸しや効率化によって働き方改革が進み、引き継ぎによって人材育成にもつながる良い機会となる。また、育児だけでなく、介護や自己啓発などで自由に休暇が取れる企業には、優秀な人材も集まる。

産後パパ育休の運用が始まる10月まで、残り3カ月を切った。育休に関する研修や、相談フローの作成など、できることから準備すれば、秋以降の混乱は免れるはずだ。企業にとっても、家族にとってもポジティブな効果が生まれる男性育休が、当たり前の社会になればと願う。

笠井 ゆかり フリーライター

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かさい ゆかり / Yukari Kasai

1986年生まれ。大阪府出身。神戸大学法学部法律学科卒業。2009年、NHKに入局し、地方局で司法・警察取材を担当。生命保険会社への転職後は、代理店営業やコンプライアンス部門のリスク管理業務に従事。結婚を機にWEB関連会社のライターとなり、2020年からフリーライターとして独立。1児の母。Twitter:@nyagaWEB1

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