「ご当地アイドル」疾走、発信力に行政も注目 あのAKB48グループも新潟に拠点を築く

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大阪でも成功したNMB48。お笑い文化の中でもアイドルは成り立つ?

AKB48グループの総合プロデューサー、秋元康氏は、新聞連載コラム(2013年11月24日付の読売新聞)で、大阪の難波にAKBの姉妹グループを作ろうと思った際、「大阪のアイドルで当たった例しがない」と、多くの人に反対されたという。落語家の桂文枝氏からも、「いくら秋元さんでも、大阪発のアイドルは無理だと思いますよ」と笑われた、と回想している。だがそのことで、かえって発奮した秋元氏が2010年に立ち上げた「NMB48」は、初シングルでいきなりオリコンチャート1位を獲得。以降、発売シングル10曲中9曲が1位となり、NHK紅白歌合戦にも2年連続出場を果たした。拠点は大阪ながら、すでに人気は全国区だ。

NMB48専用劇場の金子剛支配人。かつて「笑っていいとも!」の名物ADだった(撮影:尾形文繁)

もっとも、難波にあるNMB48専用劇場の金子剛支配人は、「昔から(女性アイドル文化)不毛の土地と言われてきた大阪で、初めてブレイクしたといえますが、まだ成功しているとは思っていない、途中段階です」といたって謙虚である。NMB48とキャプテンの山本彩は、ようやく大阪のオバチャンにも認知されてきたが、「もっと購買につながらないといけない。大阪の人は渋チン。満足してもらうために、CDに付けるDVDの内容も豪華にしているので、費用もかかる」(金子氏)と、採算面での課題は多いかもしれない。

実際に、重要な収益源であるグッズ販売では、客単価で顕著な地域差が出るという。前出のスターダストの長谷川氏は、「東京が(購入金額が)一番高く、名古屋の人は見栄っ張りなところがあるので、けっこう買ってくれる。でも大阪はものすごくシビア」と明かす。大阪・日本橋で「ポンバシwktkメイツ」というアイドルグループをプロデュースする穴井孝治氏は時々、ほかの地域にも営業で出向くが、「大阪ではなかなか稼げない。名古屋に住み込みたいぐらい」とため息混じりだ。

地方でならギャラは半額以下

「大阪は吉本興業が100年かけて築いた、圧倒的なお笑い文化があり、飲食文化まで含めると娯楽の数が多い。だから東京的なアイドル文化が新たに根づきづらい。大阪府だけでもすごい人口(約884万人)なのに、NMB48以外にはパッとしたアイドルがいない」。こう説明するのは、最近まで大阪に勤務していたテレビ局関係者である。

あるアイドル運営会社の社長は、「収益源として、ライブ入場料やグッズ販売収入のほか、イベント営業収入がないと続かないが、大阪では若手お笑い芸人が場合によっては1万円以下(のギャラ)で出演するので商売にならない」とこぼす。

イベント興行主にしても、アイドルグループだと、セキュリティや大勢来るファンへの対応に労力や費用がかかるので、敬遠しがち。世話がかからず、1人か2人で観衆を沸かすことのできる、老若男女に幅広く浸透したお笑いのほうが好まれるのだ。NMB48の成功も、「在阪テレビ・ラジオ局に圧倒的な影響力を持つ吉本興業が手がけ、かつ、台本の読み方までしっかり訓練されているような彼女たちだからこそ、なしえた」と、前出のテレビ局関係者は見ている。

「地元の企業や行政の見方が、以前と比べ、ガラリと変わった」のを強調するのは、名古屋のグループ「dela」を運営するmdmの中村浩一社長だ。「全国的に知名度のあるタレントを東京から呼べば、少し落ち目でも費用は50万円。が、ご当地アイドルなら、半額以下」と打ち明ける。

その発信力は無視できない。イベントでご当地アイドルが一生懸命踊り歌う姿に初めて見る人も酔う。本人たちもツイッターやブログで情報を拡散。地方でも100人の固定ファンが来れば、つられて人だかりは大きくなる。

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