フランスでも、「行き過ぎた風刺」は論点に 表現の自由は、無制限の自由ではない

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――政治に何ができるか。

教育政策、都市開発政策の見直しだろう。風刺画家たちが亡くなった日の翌日、教室内で黙祷をしようとしたら、10歳の子供が自分は「私はシャルリ」ではないからそうしたくない、と言ったという。どこかがおかしい。

子供たちに平等、自由、政教分離と言った共和国の価値をもっと教えるべきだろう。自由は失って初めてそのありがたみが分かる。今こそ、じっくりとこれまでを振り返り、考えるときだ。

――テロの発生は政治の失敗と思うか。

テロはどこにでも起きる。アフリカ、イラク、シリアなどでは毎日、百人単位で人が亡くなっている。

イスラム国(IS)は世界から若者たちを集めている。推定によれば、1万5000人もの西欧諸国出身の聖戦戦士がいるという。中東諸国に出かけ、戦い、西欧に戻ってくる。西欧の市民に戦いを仕掛けようとする。これをいかに防ぐかが大きな課題だ。イスラム教のイマムたちが若者の心をつかみ、聖戦戦士にしようと洗脳するとき、これを止めるにはどうするか。こうした点に政治家は取り組まなければならない。リクルートメントは今やネット、ソーシャルメディアでどんどん進むようになっている。危機感がある。

フランス社会の連帯は保たれるのか

――今回の事件では、「私はシャルリ」とは言いたくない人、報道の自由を擁護する行進に参加したがらなかった人などがいた。フランス社会はバラバラになりつつあるのではないか。

そうは思わない。フランスには表現の自由がある。だからさまざまな声が表面化する。しかし、「アステリックス」という漫画を読んでみて欲しい。これを読むとフランスがいかに国として機能しているかが分かる。

古代欧州の小さな村が舞台だ。ローマ軍の侵攻に対し、村人たちが抵抗する。いつも喧嘩ばかりしているが、ローマ軍がやってくると一致団結する。

例えば魚屋に村人がやってきて「この魚は新鮮ではない」と文句をつける。魚屋が「どういう意味だ」と言い返し、口論になる。村人全員が集まってきて、誰もが喧嘩に加わる。漫画は最後に、全員が同じテーブルを囲み食事をする場面で終わる。フランスの社会の縮図だ。

現在のフランスもいろいろな意見が出ているが、最後には一致団結して問題を解決する。今までも、いつもそうだった。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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