「イスラム国よ、まず日本政府と交渉を」 イスラム法学者のハサン中田考氏が提案

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ISISのメッセージは、安倍首相だけでなく日本国民にも向けられている。日本は民主主義国家だ。政府に対し、支持・不支持の意見がある中で国民それぞれがどう対応するかが問われていると思う。

そうした中で、イスラム教徒でありイスラム法学者として、ISISに知人がいる者として、提案を考えた。

人道支援は赤新月社を通してすべき

2億ドルの人道援助は、現地で活動する赤新月社(赤十字社)を通じて、ISIS地域内の難民になされるべきだ。援助は、食料、医薬品、毛布等の暖房器具など、人道支援にしか使えない物資にする。難民への分配は、(ISISとのルートを持つ)トルコを経由し、現地の支配組織に任せる。

ISISやその前身のイスラム運動が現地で勢力を広げたのは、イラク戦争でスンニ派への支援・補償が十分ではなかったことに遠因がある。現地の人たちはサダム・フセイン政権が倒れたことを歓迎したが、すぐに反米になってしまった。それは空爆等で多くの市民が死んだにもかかわらず補償もなかったからだ。これと同じことが、今、ISIS地域で行われている。ISIS地域内の難民に支援が届けられなければ、ほんとうの人道支援とは理解されない。

シリア内戦で、さまざまな組織が争う中で、ISISが支持されてきたのは、難民支援金などの住民への分配を、他組織に比べて公平に行ってきたからだ。住民への分配はISISを信頼するしかない。

日本政府がISISとどのようなパイプを持っているかは分からない。ただ、一般論としては、イスラム世界への理解度や認識が高くなく、アラブの専門家集団は外務省内の力も大きくない。これまで人質を救出できなかったことを考えると、政府の力で救出をすることは難しいだろう。

私がパイプを持つISISのウマル・グラバー司令官はISISの行政官で、広報担当として唯一、顔を明かし、SNSで公式に発言している人物だ。指導部内でどの程度の力をもっているかは分からないが、少なくとも偽物ではない。

72時間の意味はつかみかねているが、その間におカネが払い込まれるという意味ではないだろう。現実的にそんな短時間でおカネを受け渡しするのは不可能であり、交渉の糸口をつかむまでの猶予ではないか。

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