「制御不能な円安」日本企業と家庭にもたらす負担 大規模な介入があっても下落は止まらない

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残りの60%の輸入品に関してはどうだろうか。それらはほとんど、化学物質から機械、さまざまな工業部品や玩具に至る工業製品である。結局のところ、これらの製品の60%は海外企業製ではないものの、日本企業の海外支社が生産している。

例えば、パナソニックのタイ工場で生産された電池や、マレーシア工場で生産されたエアコンといったものだ。ほとんどの企業は、海外で生産している製品と同じ製品、あるいは少なくとも同じモデルは国内では生産さえしていない。

これら2つの要因の結果、円安になっても日本は多かれ少なかれ、同じ量の輸入品を購入し、より多く支払うことになるのである。

より多く払って、より少なくしか得られない

あなたが仕立屋だとして、自分の製品を地元の食料品店を相手に交換しているとしよう。店の人が、よその町の新しい仕立屋はもっといい仕事をするから、あなたのドレス1着と交換する食料品をこれまでの半分だけにすると言ったとする。

半分しかもらえなくても、まったくもらえないよりはましだ、という理由であなたはその取引に応じるかもしれない。しかし条件は以前より悪くなる。

円安はこれに似ている。トヨタの自動車を輸出する度に日本がもらえる食料品が減ってきているのだ。トヨタにとってはいいかもしれないが、日本の消費者にとっては好ましくない。それでも円安によりトヨタの輸出が増加し雇用が促進され賃金も上昇するなら、利益がコストを上回るかもしれない。

しかし、現在の日本ではそれは起こっていない。いかなる経済取引においても利益とコストの両方が常に存在している。かなりの円安のため、利益がもはやコストに見合っていないのだ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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