祖業との訣別を決めたパイオニアの覚悟 小谷進社長に聞く勝ち残りのシナリオ

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事業売却の背景には「カーエレクトロニクス事業の急速な環境変化があった」と話した小谷社長
 かつて、山水電気、トリオ(現JVCケンウッド)とともに“オーディオ御三家”と呼ばれたパイオニアは昨年秋、祖業である音響機器事業を手放す決断を下した。音響機器は同業のオンキヨーに売却し、好採算だったクラブで使われるDJ機器事業も米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に約590億円で売却した。
 今後はカーナビゲーションなどの車載機器事業に特化する。2015年はパイオニアにとって、車載機器専業メーカーとしてスタートの年。決断の背景には何があったのか。1つの事業に特化する戦略に勝算はあるのか。小谷進社長に聞いた。

 

――音響機器とDJ機器事業を手放す決断をした理由は何ですか。

カーエレクトロニクス(車載機器)の事業環境の急速な変化が背景にある。2009年にプラズマテレビから撤退し、残った車載機器とホームAV(音響機器)、光ディスク、DJ機器を成長させていこうとした。

ホームAVは大幅な赤字だったが、黒字まであと一歩のところまで改善した。しかし、市場はすでに成熟している。DJ機器も世界シェアが約6割、利益率2割の事業にまで成長したものの、これ以上シェアを伸ばすのは難しい。さらなる成長には、クラブ向けの業務用機器など新たな投資が必要だ。また光ディスクもシャープとの合弁で育てようとしたが、市場自体が収縮してきた。

力を分散していたら勝ち残れない

一方で、カーエレの事業環境がものすごく変化してきた。通信の高速化や大容量化で、今まではカーナビがスタンドアローンとして存在していたが、クルマの中にディスプレイだけあり、情報はすべて外から持ってくる時代に変わってきている。そうなると、競争相手も従来のようなカーナビのハードメーカーだけでなく、通信、ITといった分野の我々の数倍も大きい企業に広がってきている。

 そこで勝ち残るには、力を分散させていてはダメだ。カーエレにリソースを集中させるというのが、今ある選択肢としては最善だと判断した。

――音響機器事業は今年3月にオンキョーに売却するが、パイオニア製品とは価格帯、ラインナップなどで重複する部分が多い。

確かにオンキヨーとは製品でバッティングする部分もある。そのため、まず2社でやることは開発、生産、間接部門の徹底した効率化だ。そしてハイレゾ音源などの新市場にチャレンジすれば、ビジネスとしては十分やっていけると思う。

――祖業の音響機器事業を手放す心境は?

忸怩たる思いだ。プラズマテレビから撤退するときもそうだった。だが、重要なことは、われわれはパイオニアのDNAである「音」へのこだわりは継続させるということ。そのためにオンキヨーにも15%出資し、一定のオーナーシップを持たせていただく。

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